不動産業界の営業職ーー不動産営業ーーといえば、高年収を狙える営業職のイメージがある方も多いのではないでしょうか。
近年の超低金利政策を追い風に、右肩上がりの状態が続いている不動産市場。さらに五輪・万博の開催といったビッグイベントが続くことから物件の高騰が続いていましたが、2019年の消費増税を境に都心マンションや土地の価格はすでにゆるやかな低下傾向にあります。
業界では2020年の東京五輪をひとつの節目に、不動産価格が下がるという見方が通説です。(不動産の2020年問題)
その他にも生産緑地に関わる税制優遇の期限切れである2022年問題、人口減少による空き家問題、最近ではコロナウイルスによる景気後退など向かい風となる要素はてんこ盛りで、将来を不安に感じている方も多いのでは。
さらに働き手として気になる点として、「不動産業の営業といえばブラック」との先入観もあるのでは。
ドラマ「家売るオンナ」では、イモトアヤコをはじめとした登場人物が、サンドイッチマン(木枠の大きな看板を肩からぶら下げて、営業すること)になる様子や契約を取るために手段を問わずにアプローチする様子が、コメディタッチに描かれていたのはまさに不動産業界のステレオタイプなイメージです。
私に売れない家はありません!
ドラマではあまりにも大げさに描かれ過ぎているきらいがありましたが、実際に不動産業界にお勤めの方であればブラックとは言わないまでも社内外の風当たりの強さは実感しているところではないでしょうか。
今回は、不動産業界で営業としてキャリアアップを目指す方に向けて自分の理想を実現しながら年収をアップするための転職のコツをお伝えしていきます。
不動産営業の仕事内容についておさらい
まずは不動産営業の種類についておさらいします。
ひとくちに不動産営業といっても取り扱う商材はさまざまですが、大別すると「販売系」と「賃貸系」の2種類に分けられると思います。
- 販売系
- ・土地、戸建て
- ・新築分譲マンション
- ・中古マンション
- 賃貸系
- ・賃貸マンション、アパート
- ・貸し事務所
賃貸営業と販売営業はまったく違う!
この手の転職サイトで「賃貸営業経験者には売買営業への転職がおすすめ!」という論調の記事を見かけますが、これは全くの誤りです。
賃貸は内勤営業で売買は外勤営業となりますから、両者に問われる資質やスキルが違います。
店舗を構え、来店した客を相手に物件に関するニーズをヒアリングした上で提案を行います。賃貸物件の取り扱いが中心です。カウンターセールスとも呼ばれます。そのためお客様の中心は学生や新婚のファミリー世帯です。担当エリアの知識(スーパーの場所、住環境、学校事情など・・・)がセールスの鍵。引越しが重なる繁忙期(11月~3月)に業務が集中し、それ以外の時期は大家さんへのご挨拶周りの役割を担うことも多いです。
問い合わせがあった客のもとに直接赴き商談を行います。賃貸に比べてお客様は裕福な層が多く、できる営業パーソンとしての資質が問われます。担当エリアの周辺事情に加えて住宅ローンや市況など幅広い知識と調査力が必要で、宅建取得が望ましいとされます。中古物件場合、査定や買い手探しといった足を使った仕事も外勤営業が担うこともあります。
ですから未経験の方の場合「まずは賃貸で経験を積んで売買へ行こう!」などとは考えないことです。売買がやりたいのか、賃貸がやりたいのか、最初からよく考えて選択してください。
不動産営業の種類と転職先
さて、この先あなたが不動産営業パーソンとしてどのような進路を歩むべきかは現在の経験とあなたの仕事観次第です。
まずは以下の表を御覧ください。
営業のプロとして年収アップを目指したい | 将来的には管理職を経験したい | |
---|---|---|
現在は販売系 | 新築分譲マンションの売買 | 名門不動産会社の販社 |
現在は賃貸系もしくは業界未経験 | 中古マンションの売買 | 大手賃貸チェーン |
※スマホの方は横にスクロールしてご覧ください
※リンク先をクリックすると解説にジャンプできます。
縦軸はあなたの現職です。「販売系」か「賃貸系」か。同じ営業でも得られる経験やスキルが全く異なることは経験者の方なら体感的にご理解いただけるかと思います。
※業界未経験の方も便宜上「賃貸系」に含んでいます。
横軸はあなたが目指す働き方(仕事観)です。「営業のプロとして年収アップを目指したい」のか「将来的には管理職を経験したい」のかによって目指すべき道が変わってきます。
縦軸(現職)と横軸(仕事観)をかけ合わせたとき、あなたに合った進路が見えてきます。
それぞれ順番に見ていきましょう。
「販売系」経験者で「営業のプロとして年収アップを目指したい」あなたは・・・新築分譲マンション売買の営業職向け
大手不動産会社各社が競うように施工しているブランドマンション。新築分譲マンションを取り扱う営業パーソンは不動産業界の花形です。
野村不動産・・・PROUD(プラウド)シリーズ
東急不動産・・・BRANZ(ブランズ)シリーズ
マリモ・・・POLE STAR(ポレスター)シリーズ
販売期間中は担当物件のモデルルームに通勤することとなります。分譲マンションは売り切ったら終わりですので1年ぐらいのサイクルで次から次へと配属先モデルルーム変わる、ハードな仕事です。
その分売れたら売れただけ高額の歩合(インセンティブ)を手にすることができます。
価格ドットコムの調査によれば、不動産営業の平均年収は以下のとおりです。
(引用:不動産営業の仕事の年収・時給・給料情報|求人ボックス)
かなりの高収入なイメージのある不動産営業ですが、平均では他の営業系職種、たとえば法人営業の447万円や、個人営業の424万円よりも低くなっています。
不動産営業はインセンティブの割合が大きいため、実績をあげたトップセールスともなるとインセンティブも含めて2,000万円もの年収を手にしていますが、営業成績が振るわず給与が伸び悩んでいる方も多いようです。
高い年収に比例して、新築分譲マンションのセールスで求められる要求値も相応のものです。
- 高額商材を扱う担当者としての気品
- 住宅ローンや金融機関に関する知識
- 図面からお客様に新生活を連想させるトーク力
- 毎回異なる担当物件の周辺エリアや競合物件をリサーチする努力
一戸建てや中古マンションの販売を経験してきて一定の実績をあげている方ならこうした素養を実績ベースで証明できます。応募先が大手のデベロッパーであっても諸手を挙げて歓迎されることでしょう。
コツを掴めば40~50代になっても営業の第一線で活動できる、まさにThe・営業職です。
反面、不動産としてのプロフェッショナルとしての経験が問われますから業界未経験での内定獲得は至難の業です。
新築マンションデベロッパーはどこも大手ですから求人票はリクナビNEXTなどの公開制求人サイトにあまり出回りません。応募にあたってはリクルートエージェントやマイナビエージェントなどの転職エージェントを頼りましょう。
一戸建てのメーカー営業職から不動産デベロッパーに応募する場合の志望動機例
◯◯ハウスの営業担当者として4年間経験を積んで参りました。
配属先の横浜営業所では最初の1年こそ苦労しましたが、それ以降は連続で達成となっています。
新規顧客は問い合わせだけに頼っていられませんでしたので、地元の商工会議所や経営者御用達のバーを回るなどして泥臭く稼ぎました。
さらに見込み客が検討している土地周辺の宅地開発事情を徹底的に調べて日照や地盤まで調査して、自社の強みである日当たりや耐震を訴求して受注するという提案スタイルが好評だったように思います。
◯◯不動産さんの◯◯シリーズは都心部から郊外へ拡大中と伺っています。そういったエリアでは戸建て営業として培ってきた地元での生活に寄り添った提案をする力がお役に立てると考え、ご応募いたしました。
「販売系」経験者で「将来的には管理職を目指したい」あなたは・・・名門不動産会社の営業職向け
「名門不動産会社」の定義は人によってさまざまかと思いますので、代表的な企業を列挙します。
- 三菱地所
- 三井不動産
- 森ビル
これらの企業の特徴は一等地の不動産を扱っていることです。一等地とは丸の内や八重洲の土地や大型路線の鉄道沿いの物件のことです。
そしてもう一つ特徴があります。それは超絶ホワイト企業であるということ。しっかりした法人、個人を相手に商(あきない)をしているのでストレスやトラブルが起こりにくいのです。
これらの企業は販社をグループ会社としてホールディングス化していることが多いので営業職の方はそれらに所属することになります。働き方としてはやはり都市部の再開発など大規模プロジェクトの営業に関わることが多く、お客様も法人が中心になるので夜の残業もそこまで多くありません。
不動産営業職としてのノルマや理不尽な顧客対応に疲れた・・・という方には最高の職場ではないでしょうか。
そういった商習慣ですから上司に言われた以上の成果を出すという意識の方は少なく、年収を上げるためにはキャリアとして管理職コースを歩むのが一般的です。
反面プロフェッショナルとしてガツガツ働きたいという方には逆にストレスフルな環境かもしれません。
名門不動産会社の求人は新築マンションデベロッパーと同様にリクナビNEXTなどの公開制求人サイトにあまり出回りません。転職エージェントを頼りましょう。都心の案件が中心ですので応募にあたっては都市部に強いマイナビエージェント選択するのが良いでしょう。
新築マンションの営業職から名門不動産会社に応募する場合の志望動機例
新築マンションの営業担当者として千葉県郊外の営業所で5年間経験を積んで参りました。
通勤ラッシュの負担を抑える通勤時間などを事前に調べてお客様に新生活を連想させるトークが得意で業績もよく仕事にはやりがいがあったのですが、再開発の案件を多く手掛けるにつけ、都市部でより大規模なプロジェクトに関わりたいという思いが強くなってきました。
◯◯不動産さんは渋谷や新宿で相次いで大規模な再開発を手掛けています。顧客の中心は個人から法人に変わりますが、私は都心に通勤するホワイトカラーのお客様とのやり取りが中心でしたので、これまで培ってきた不動産の知識を活かしながらお役に立てるものと考え応募いたしました。
B社では○○支店○○営業所にて、居住用不動産の売買仲介を中心とした反響営業を行ってきました。
昨年度は○○営業所の副主任として部下5名をマネジメントしつつ、営業担当としても○○万円を売り上げ達成率120%で成績1位を獲得しました。
節目となる30歳を前に営業成績1位という大きな目標を達成したこともあり、現在は新たなチャレンジとしてより大きな金額が動く不動産開発・販売営業にチャレンジしたいと考えたのが今回の応募につながりました。
業界の慣習としてプレイングマネージャーとして動ける人材を求められていると感じております。〇〇地区の再開発にも携わった貴社で、将来の管理職を目指して活躍できたらと考えています。
賃貸系経験者もしくは業界未経験で「営業のプロとして年収アップを目指したい」あなたは・・・中古マンション売買の営業職向け
中古マンションの営業職は膨大な物件の中からお客様のニーズにあった物件を紹介し契約に結びつけるのが仕事です。
レインズ(REINS。不動産流通標準情報システム)に登録されている物件は登録不動産事業者であればだれでも閲覧できるため、大手から地元密着の小規模事業者まで群雄割拠の様相を呈(てい)しています。
新築のデベロッパーと比較すれば入社難易度は低く、企業規模にこだわらなければ賃貸営業からの転職や業界未経験でもチャレンジ可能です。
転職サービスとしてはリクナビNEXTを選択し、自分の希望エリアに絞り込んで中古マンション事業者を検索すると良いでしょう。
なお、中古マンションのセールスパーソンは「地域の情報と人脈」を非常に大切にします。(仮に全国展開の大手に入社したとしても配属先の営業所にはテリトリーがあるのでそのエリアに精通する必要があります)
物件そのものの情報だけでなく、地価の趨勢や今後の再開発予定、はては幼稚園・小学校の評判や近隣のスーパー事情までくまなく仕入れて見込み客との会話を盛り上げます。
そのため配属先の営業所が自分の得意エリアであれば採用面接に有利に作用することでしょう。
賃貸のカウンターセールス職から中古マンション売買営業に応募する場合の志望動機例
賃貸チェーンの営業として埼玉県浦和市の営業所で3年間経験を積んで参りました。
もともと埼玉県民だったこともありますが、なかでも浦和エリアやその周辺の大学や子育て事情を徹底的に把握しておりましたので、最後の年は学生さんやファミリー層の決定率は30%を記録しました。Jリーグの浦和レッズファンのお客様も多いとわかりましたので、毎試合チェックして接客中の会話づくりに役立てるなんてこともやりましたね笑
今回、賃貸から売買へ営業としてステップアップしたいと考えての転職ですが、◯◯不動産さんは埼玉に営業所が多いので、どこに配属されたとしても前職の経験を活かしてお客様、特にファミリー層に寄り添ったご提案ができると考えております。
賃貸系経験者もしくは業界未経験で「将来的には管理職を経験したい」あなたは・・・大手賃貸チェーンの営業職向け
賃貸の営業は売買の営業に比べてノルマが緩めです。
繁忙期は忙しいですが、それ以外の期間は比較的ルーチンの仕事内容で未経験でも受け入れてくれやすい業界です。
基本的に店舗でお客様を待つ反響営業ですから、特に賃貸大手企業は個人での必達目標を持たされず店舗単位で目標設定がされている企業も多いです。
店舗一丸となって達成に取り組むため人間関係は比較的良好なことが多いようです。繁忙期を避ければ有給も取りやすいでしょう。
キャリアアップして年収を上げるためには管理職(店長やエリアマネージャー)を目指すこととなります。この点も一匹狼の売買営業とは違い、年功序列に近い出世コースとなっています。
※ただしその分大幅な年収アップは見込めません
求められるのはとにかく「明るさとタフさ」。異業種からの転職の場合はなおさらです。
飲食店勤務から賃貸営業に応募する場合の志望動機例
前職では飲食チェーンの総合職として2年間、店舗管理の仕事を任されておりました。
このチェーンは新入社員研修に力を入れていることで業界内でも有名でして、入社後の1ヶ月間有名な管理者養成学校に缶詰にされたあとさらに1年間店舗の現場業務を経験しております。
体力勝負のところがある仕事でしたががんばった分だけ成果に返ってきますし、会社からも評価されますから自分の性分にあっていました。
ただ一方で、業界の先行きに不安を感じてしまっているのは事実でして、持ち前の献身性を活かしてかねてより興味のあった不動産業界に営業としてチャレンジしたいと考えております。
自分も何度か引越しを重ねていますし、賃貸の世界には理解があるつもりです。前職で培ったマナーの部分は活かしつつ、早期に戦力となれますよう努力させていただきます。
転職体験記:仕事の内容や進め方が希望と合わずに業界内で転職することも
賃貸営業から投資用不動産の販売営業、再度転職して投資用不動産の販売営業
(参考:前回の転職での反省点。それは「聞かれたことだけに答える面接」だったこと。 | エン転職)
新卒で入社後、賃貸営業の業務を4年間続けていた方の転職体験記です。
賃貸営業をするうちに、不動産売買に興味を持ち、一度目の転職で投資用不動産の販売営業の仕事に就きました。
しかし、入社した会社では、自社が保有する物件の販売しか行えず、売り方もマニュアル通りに商品を説明して販売するというスタイル。
思い描いていた「お客様の話しを聞き、お客様それぞれに合った提案をする」販売とのギャップから早期に退社し、再度転職活動を開始。
再就職先として決まった投資用不動産の販売営業の仕事環境は、「自社物件だけではなく仲介物件も扱うので、提案できる商品数が多い」「実力主義で、個人の裁量も大きいこと」企業でした。
面接で「お客さんに合った提案内容を自分で考える営業活動をしたい」ことを伝え、社長や専務の返事から、自信が思い描いてた営業の仕事ができそうだと思い、入社を決めたそうです。
不動産営業から不動産賃貸営業
(参考:収入アップを目的に2度転職するも失敗。見落としていた転職先選びのポイントとは? | エン転職)
こちらの方は、一度目の転職で未経験の営業職に就いたが、入社前の説明と異なり、給与が一向に上がらず再度転職。不動産の販売営業の職につきました。
希望の通り月給も高くインセンティブもあったが、2つの問題に気が付きました。
「労働環境」と「営業スタイル」に関するギャップでした。
毎日10時から21時まで営業をした後、オフィスに戻って終電まで事務作業をするというハードワークが当たり前の環境だったそうです。
営業スタイルは、とにかく売ることが優先で、顧客のニーズは二の次三の次というもので、その点にもギャップを感じ再度の転職決意しました。
三度目の転職先では、富裕層をターゲットにした賃貸営業の職につきました。
賃貸とはいえ単価が高いため、慎重に選ぶ顧客が多く、営業は担当顧客一人ひとりに向き合って、理想の物件を探り提案します。
丁寧な対応が必用なため、1日の対応件数も少なく無理な長時間労働もない職場です。
二度の転職で自分が好む社風や仕事のあり方を見つめ直し、面接で会社を選んだそうです。
自分の希望の働き方を見極めて転職する
ご紹介した転職体験記では、どちらも自分が希望する働き方と転職先の環境が一致しているかを確認できていなかったため、複数回転職することになりました。
転職活動の際は、自分の経験やスキルを活かせる環境を選ぶことも重要ですが、同時に自分が希望する働き方ができる環境であるかも重要なのです。
当記事でここまで述べてきた通り、不動産営業は、賃貸と販売で業務内容や環境が変わります。また、顧客の属性によっても差があります。
不動産営業としての転職活動を行う際は、これらを考慮して自分が希望する働き方ができる職場を探し、面接では、そうした内容に関しては積極的に質問して情報を集めましょう。
あなたの経験と仕事観をかけ合わせて、将来像を描こう
暦通りの休日にはなりにくい、クレーム対応も激しくなりがち、そんなときでもノルマの期日は確実に近づく。
それでも不動産営業はお客様の一生の中でも最も高額のお買い物をお手伝いするやりがいのある仕事です。市況がどうなったとしてもこの本質は変わりません。
あなたの経験と仕事観をかけ合わせて、不動産営業における理想のキャリアを歩まれることを応援しています。