「システム開発会社で働きたい」「SIerへ転職して新しいキャリアを歩みたい」そうお考えの方は多いと思います。
確かにIT業界は今伸びています。以下のグラフを御覧ください。
濃い青のゾーンが今後IT業界で不足すると考えられている求人の数です。
逆にいえばこれだけの速度で業界が成長していて、仕事が増えていることの現れでもあります。
(引用元:IT人材需給に関する主な試算結果①②③の対比(生産性上昇率 0.7%、IT 需要の伸び「低位」「中位」「高位」) - 2019年3月 みずほ情報総研株式会社)
IT業界で生きていくと決めたからには、将来を見据えたキャリアの立ち回りが重要です。
1.そもそも「IT業界」とは?
本題に入る前に、ここからの話がややこしくならないように「IT業界」の定義をしたいと思います。(余談ですが筆者はよくこの「言葉の定義付け」がITっぽいといわれます)
一般的にIT企業として想起されるのは「システム、ソフトウェア、ネットワークなどの受託開発会社(システムインテグレータ、SIerを含む)」でしょう。それらは以下の3つに分類されます。
①メーカー系SI企業
・日立系(日立ソリューションズ、日立システムズ)
・NEC系(NECソフト、NECシステムテクノロジー、NECネクサソリューションズ)
・富士通系(富士通マーケティング、富士通エフサス、富士通エフ・アイ・ピー)
など
大企業の系列であるため顧客は安定。いきなり別プロジェクトに回されるようなことも少ない。親会社が不振になると一気に傾く。親会社の意向が強く先進的な案件が少ない。あえてレガシーな技術や言語を使わなければいけないこともしばしば。
②ユーザー系SI企業
・野村総合研究所
・伊藤忠テクノソリューションズ
・NTTコムウェア
など
大企業の情報システム部門が分社化してハウスエージェンシーとなったもの。
商社・金融系の親会社であることが多く、不況の影響を受けにくい。習得スキルはかなり限定的になるので、例えば「証券システム開発のプロフェッショナルを目指す」という思いが明確な方には良いが幅広い案件や言語をこなしたい方には不向き。
③独立系SI企業
・NTTデータ
・野村総合研究所
・電通国際情報サービス
など。
親会社の意向を無視できないメーカー系と異なり、先端技術や言語、ソフトウェアの選択幅が広く、幅広く最新技術を習得しやすい。しかし、景気や営業不振の影響を受けやすい。
また、これらの企業のハブとなるSES(技術者派遣型サービス)の存在も見逃せません。SESとは社員として入社したエンジニアを「客先常駐」という体裁で別会社へ出向させる企業のことです。
加えて広義にはWebマーケティング会社やEC事業、自社プロダクト(スマホアプリやWebツール)を運営する企業も「IT業界」に含まれることが多いです。
あまりテーマが広くなりすぎるといけませんので、この記事ではIT企業=「システムインテグレータ(SIer)を含む受託開発会社及びSES」と定義して話をすすめます。
2. 多重下請け問題による下請け企業の受難
IT業界の一員としてキャリアを考えるのであれば、受託開発の構造的欠陥としてよく話題になるの「多重下請け構造」の問題を理解しておく必要があります。
IT業界の仕事の多くはエンドユーザーが発注した開発案件を、元請け→下請け→孫請けの順に分散して仕事を流すというものです。(ウォーターフォール型プロジェクト)
ピラミッド最上段にいる元請け企業が「SI企業(SIer)」で、要件定義やシステムの基本設計などの上流工程を担います。巨大プロジェクトになると、ひとつのプロジェクトに複数の会社のエンジニアが参加するのが普通です。
当然ですが下請けピラミッドが大きくなればなるほど最下層に支払われる報酬は少なくなります。この構造は建設業界になぞらえ、「ITゼネコン」などと揶揄されることもあります。
そのため下請け企業で働く方の賃金は少なくなり、技術や労働時間に対して正当な対価を受け取れない状況が発生しえます。
また、上流から指示された仕様の元プログラミングをしますので、PGとしてもっとも重要な「スキルアップ」が難しくなりキャリアが手詰まりになりやすいとも言われます。
3.開発経験者はSIerへの転職を目指すことが幸せなのか?
多重下請け問題を背景として、IT業界の「勝ち組」として扱われやすい大手SI企業ですが、果たして本当にそうでしょうか?
確かにSIerは高年収で福利厚生も充実していますし、大規模なプロジェクトを動かす達成感もある、やりがいのある職場です。
しかしSIerに入社することは「自分ではほとんどプログラムを書かなくなる」ことを意味します。
システムインテグレータの仕事のほとんどは「発注主との打ち合わせ」と「プロジェクトの進捗管理」(PM、PL業務)です。
折衝やコミュニケーションのスキルはどんどん見についていくと思いますが、逆に最新の技術には取り残されていきます。こうしたタイプはいざ自分で独立しようとしても潰しがききにくいため、PM、PLとして出世コースを歩んでいく決意が必要です。
これは例えば、「将来はバリバリのPGとしてTech企業を立ち上げたい」という想いを抱いている方には不向きな環境です。
極端な話、日本のメーカー系もしくはユーザー系SI企業でのキャリアはコーダーとしての経験を重視するシリコンバレーでは見向きもされません。
要はご自身のキャリアプラン次第、ということです。
なお、ほとんどの大手SIerは新卒大量採用を実施しており、中途の求人は転職エージェントの非公開求人でしか流通しません。
SIerへの転職を希望する方は大手SI企業に強いマイナビIT AGENTを利用すると元請け企業への紹介が期待できると思います。
一方でプロマネというよりプログラマとしてキャリアアップしたいという方にはWeb系スタートアップ企業をおすすめします。
資金調達や投資により手元資金が潤沢なWeb系スタートアップ企業は年収アップへの最短ルートともいわれ、先端技術の導入にも積極的です。
ちなみにWeb系スタートアップ企業の求人が充実しているのはなんといってもレバテックキャリアです。まずは話を聞いてみることをおすすめします。
4.未経験からIT業界を目指すには?
ちなみに未経験からIT業界を目指す場合、どのような方法があるのでしょうか?
未経験者への門戸は意外と広い
IT業界への転職やプログラマへのキャリアチェンジと聞くと狭き門なイメージがありますが、意外とそんなことはありません。
リクナビNEXTで未経験者歓迎のシステムエンジニア求人を検索いたしますと、230件もの求人がヒットします。
ただし、実際はこれらの内8割以上が下流の下請け企業もしくはSES(客先常駐型)企業を通じた下請け会社への派遣です。
客先常駐としての働き方を希望しない場合は、下請け開発系の開発会社の求人へ応募すると良いでしょう。
※募集企業がSESであるかどうかを見抜くポイントは以下の通り。
・勤務先が23区及びその近郊となっているか否か
・勤務時間がクライアント先に準ずるとなっているか否か
・取引先が同業者(システム開発会社)ばかり
未経験から本気でプログラマを目指すなら、SESは最高の職場
しかし、SESといっても必ずしも悪い面ばかりではありません。
むしろ「どんな環境でも努力する。とにかくIT業界でプログラマを目指したい!」という方にとって、SESは魅力的な環境です。
なにしろSESに入社すれば研修期間と称して数カ月間は給与を得ながらプログラムを学ぶことができます。これは下請け開発会社には無い利点です。お金を出してプログラミングスクールにいくより何倍もいいと思いませんか。
その後まずは比較的難易度が低めのプロジェクト(企業)に派遣され、経験を積んでスキルアップするにつれて求められる技術レベルの高い案件を任されるようになります。
そうして技術を積み上げた先で、独立や転職など、あらためて自分自身が目指す道を見つめ直せば良いのです。
未経験の場合、転職エージェントは使えない
なお、プログラミング未経験の場合は転職エージェントを訪ねてもまず門前払いです(転職エージェントは経験とスキルを重視しますから、現職の延長上の職場に誘導されます)
ですから、リクナビNEXTで「未経験歓迎」のSESを探しましょう。
その際の条件として、以下の点をよく確認するようにしてください。
・研修期間ができる限り長いこと(しっかり教育してくれるところ)
・定着率が高いところ(派遣先の就業形態が契約に違反している場合などにサポートしてくれる)
5.まとめ
IT業界(受託開発業界)への転職事情をまとめると以下の通りです。
開発スキル | キャリア志向 | 適正 |
利用すべき 転職サービス |
---|---|---|---|
経験者 | PM、PLとして上流を目指す | SIer(メーカー系もしくはユーザー系) | マイナビIT AGENT |
エンジニアとしてプロフェッショナルを目指す | Web系スタートアップ企業 | レバテックキャリア | |
未経験者 | 客先常駐は苦にならない | SES | リクナビNEXT |
客先常駐は希望しない | 下請け開発会社 | リクナビNEXT |
いずれのステージでも重要なことが一点あります。
それは「変化に対応できる人であること」です。
SI業界はとても変化が早いです。求められるのはその変化を受け入れて対応できる柔軟さと吸収力です。
これがあればたとえ文系卒の未経験でもメキメキと成長していけますし、逆にこれが欠けている方はどんなに立派な会社に勤めていてもいつかは時代の流れについていけなくなります。
忙しいIT開発業務の中でも自身の決意を見失わず、柔軟さと吸収力を持ち続けるためにも、
元請け→下請け構造の現実と、ご自身の将来像をよーく照らし合わせ、慎重な第一歩を歩まれることをおすすめします。