本が好き。活字が好き。出版業界で、書店を相手に仕事をしてみたい!
取次会社で仕事をしているけど、出版不況で苦しい。ながく業界にいたからこの出版の仕事しか知らないし、やっぱり子供の頃からマンガが好きで、この世界の仕事に携わっていたい。
出版業界で仕事をしてみたい、という方は多いのではないでしょうか。ご存知の通り2000年代に入ってからは右肩下がりの業界ですが、はたして転職事情はどういった状況なのでしょうか。
出版不況について
出版業界について語るのであればこのテーマを避けて通ることはできません。
紙発行である新聞や雑誌、書籍の販売部数が年々減少している影響により、出版業界市場は低迷を続けています。
市場規模は2015年から2018年の3年間だけでも1億円下回りました。
(16,700億円→15,400億円 全国出版業界調べ)
ネットに押され、かつては栄華を誇った雑誌もジャンルを問わず次々と廃刊しています。
また、一般的に書籍の返品率は20%が目標とされていますが、ここ20年間の返品率は35%~40%前後を推移しており、今後もこれが改善される見込みはほとんどありません。
このような状況ですから、単に「本が好きだから」という理由だけで未経験から出版業界を目指すことはおすすめできません。
転職にあたっては業界構造をしっかりと理解して臨む必要があります。
唯一気を吐く電子書籍
一方で電子書籍はすっかり身近になりました。2020年にはLINEマンガの流通額が300億円を超えたそうです。
2015年に約1,500億円だった電子出版市場は2018年には2,479億円まで成長を遂げており、この傾向は今後ますます加速していくと思われます。
出版業界の流通の仕組み
あまり知られていませんが、雑誌や書籍の流通には多くのステークホルダーが関わっています。これらはいずれも広い意味での「出版業界」です。
出版社
講談社、KADOKAWA、集英社、小学館など。
出版業界の花形です。なんといってもコンテンツの出版権や著作権といった権利を保持しているが最大の強みです。
最大手の講談社の雑誌・書籍事業ともに毎年前年比10%マイナスの成長率となっていますが、一方で広告収入と事業収入(メディア収入)の売上が雑誌・書籍事業収入を上回りつつあります。
これはコンテンツの版権の貸し出しや自社デジタルメディア(集英社のジャンププラスが身近な代表例でしょうか)によるものです。
今あえて出版業界を目指すならまずターゲットにしたい企業郡です。
印刷会社
※ 印刷会社の転職事情については別ページで解説しています
取次会社
取次会社の仕事は印刷された書籍を書店に流通させること、いわゆる卸の役割です。国内においては日本出版販売(日販)とトーハン(TOHAN)のほぼ寡占状態です。
そのためどちらも規模は大きいのですが、出版不況の煽りを強く受けている業界でもあります。日販は平成27年から平成31年の5年間で売上の実に15%を減少させています。
業界の体質も古く、何よりコンテンツそのものを有しているわけではないためなかなか事業構造を変えられない非常に苦しい企業群です。
今後大規模なリストラの可能性も感じさせる業界構造で、事実日販・トーハンともにここ2年近く中途採用の求人はかなりレアです。
書店
最後に紹介するのは皆さんおなじみの書店です。
名古屋市を中心に「ザ・リブレット」などの名称で約20店を展開する「大和(だいわ)書店」が2019年に倒産するなど、地方書店の廃業や倒産が相次いでいるのは周知のとおりです。
このような中、唯一業界1位の紀伊國屋書店だけは別格に安定した営業成績となっています。
紀伊國屋書店の売上
2016年:1059億円
2017年:1033億円
2018年:1031億円
※ 11期連続の黒字
この不況下でこの営業成績はかなり素晴らしいのですが、実はこの内約200億円は海外市場のものだということは意外と知られていません。紀伊國屋書店は世界で最も海外展開を成功させている書店チェーンのひとつなのです。
「書店がくじけたら文化もダメになる」を合言葉に、商習慣の違いや為替の問題を乗り越えて積極的にグローバル化を推し進めているのです。
紀伊國屋書店の存在は出版不況にあえぐ業界の希望の光となっています。
出版業界に転職するには
さて、結論としてこれから出版業界を目指す方におすすめの進路は2つです。
(1)やっぱり本が好き。書籍を「売る」ということをリアルに感じたい
↓
紀伊國屋書店へ
※ページ下部へ移動します
(2)電子書籍・デジタルコンテンツ分野で新しい出版の未来を作りたい
↓
講談社、KADOKAWA、集英社など大手出版社へ
※ページ下部へ移動します
いずれも中途採用では狭き門ですが、道はあります。
それぞれ解説します。
(1)やっぱり本が好き。書籍を「売る」ということをリアルに感じたい
書店への転職ということであればやはり紀伊國屋書店が第一志望となるところです。
紀伊国屋書店は公式サイト上で求人の告知を行います。
特に「営業職」の求人が多いようです。
書店の「営業」というとちょっとイメージしにくいですね。もちろん店舗スタッフのことではありません。
書店における「営業」とは「外商」のことです。
大学や官公庁などの研究機関や、小学校や図書館などに通って、最新の学術書や国内外の書籍を提案する仕事です。
研究や教育分野のエキスパートを相手にすることになりますので難しい部分もありますが、その分相手のニーズを把握して提案できれば感謝されます。
募集要項に「30歳ぐらいまで」とされていることから若手を募集していることが伺えます。第二新卒の方にとってはチャンスです。
営業経験が少しでもあれば書類選考を通過しやすくなりますが、もしない場合でも対人折衝能力や粘り強さを具体的なエピソードを用いてアピールするようにしてください。
紀伊國屋書店は海外事業の担当者を若手から選抜しているそうですから、「いずれは海外での仕事をしてみたい」と思っている方にもおすすめです。
(2)大手出版社は公式サイトで中途採用を告知しない
まず大手の出版社は多くの伝統的日本企業がそうであるようにまだまだ新卒重視で、特に公式サイト上で中途採用を告知することはあまりありません。(なお講談社は新卒入社の人気企業のひとつでその倍率は100倍と言われています)
※ KADOKAWAだけは例外で、キャリア採用の特設サイトがある
しかしだからといって転職できないというわけではありません。
大手出版社ではデジタル系職種の募集が多い
出版社は新卒偏重の採用を行っているため、特に新規事業領域を担う専門家が不足する傾向にあります。
そのため昨今の大手出版社ではデジタルメディアの展開に必要な以下の職種のニーズが高いです。
- 募集業界に精通した新規事業開発担当(プロジェジェクト立ち上げ経験があるとなお良い)
- SE(プログラマというよりはプロジェクトを管理するPM/PL)
- デジタルマーケティング担当者
したがってSIerでのPM経験やインターネット広告代理店のディレクター経験などがある方なら可能性は十分。受託系の仕事から出版社付けのインハウス担当にキャリアチェンジするチャンスです。
求人票をよく見て、自分の経験の中からマッチしそうなアピールポイントを探ってください。
※ 大企業への転職、というとマネジメント経験が問われるものと勘違いする方がいらっしゃいますが、前述の通りプロパー重視の企業においては中途で管理職として登用されることはまずありません。「部下・後輩の育成」という意味でのマネジメント能力はアピールポイントになりませんのでご注意ください。
肝心な求人票ですが、インターネット上にはほとんど公開されませんので、必ず転職エージェントの非公開求人を頼ってください。
講談社や集英社を志望するならリクルートエージェントやマイナビエージェントが良いです。
(過去にグループ会社が何度も利用している)
もし出版社へ転職できれば中堅社員でもその年収は800~1,200万円とかなり高額です。
似たような年収の外資系企業と違って出世コースもありますし、何より自分の好きなコンテンツを活かした仕事のやりがいは何にも代えがたいものになることでしょう。
スキルは無いけどどうしても出版社を目指したい!という方へ
20代前半で業界未経験、でもマンガが大好きで、出版社への夢を諦められない、という方にはコミック編集者の契約社員という道も。
コミック編集者職は未経験から応募が可能で、契約社員扱いにはなりますが正社員登用コースも用意されていますので20代前半の方が出版社を目指すには最適です。
まずは出版社に潜り込んで一旗上げる!というイメージですね。
※ その分最初はかなりのハードワークを覚悟してください。