医療機器業界といえば法規制が厳しくコンサバティブ(保守的)で、変化が少ない業界といわれてきました。
しかし、「医療ビッグデータ法」と「ヘルステック」の登場により医療機器業界は急速に変化しつつあります。もちろんその余波は求人・転職市場にも。医療機器業界の今とそこで働く人のキャリアに迫ります。
1.変化の過渡期にある医療機器業界
そもそも医療機器の国内市場は飽和しています。医療機器は大変高額(中古のX線装置でも350万円以上)ですから、病院側も一度導入してしまえばそんなに買い換えるものではありません。
(参考:中古CT・MRI・X線TV装置ご案内 - エム・キャスト|中古医療機器売買)
そのため医療機器メーカーが扱う商材も変化。CTやMRIなどの大型ハードから、患者のカルテを保存・共有するシステムや診断のプラットフォームなどソフト面のサービスに舵をきっています。
これに拍車をかけているのが2018年に施工された「医療ビッグデータ法」
(参考:第193回 通常国会 - 内閣官房)
※医療ビッグデータ法(医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律)とは
カルテや検査データなど医療機関などが持つ患者の医療情報を匿名加工し、大学や企業での研究開発などでの活用ができるようにするための法律で、5月11日から施行されます。収集した医療情報をビッグデータとして分析しやすくなり、政策立案や創薬、医療機器開発などに活用できるようになります。
(引用:m3.com)
医療データ取り扱いの自由度が上がったことにより、ドコモがオムロンと手を組んで新会社「ドコモ・ヘルスケア」を設立するなど医療とITの融合が進んでいます。
最近ではオンライン診療サービス系のスタートアップもめざましい躍進をとげています。
※オンライン診療(遠隔診療)とは
オンライン診療とは、予約から問診、診察、処方、決済までをインターネット上で行う診療方法です。2018年の診療報酬改定にて保険診療での診療報酬点数が新設され、対面診療と組み合わせることなどを条件にビデオ通話を用いた診察方法が認められました。
(出典:オンライン診療サービス curon)
医療データを取り扱うITベンチャーは「ヘルステック」と呼ばれ、今や注目の的。
海外でもGoogleやマイクロソフト、amazonなどがこぞってこのヘルステックの分野に参入しています。
医療現場で活用が進む医療AI(人工知能)。
富士フイルムでは、肺のCT画像から新型コロナ艦船による肺炎が疑われる部分を自動検出するAIシステムを開発している。
他の各社も、自社の機器と親和性の高いAIシステムの開発に注力している。
(参照元:会社四季報 業界地図2022年版)
医療機器メーカーの平均年収・年齢
企業名 | 平均年収 | 平均年齢 |
---|---|---|
オリンパス | 869万円 | 42.8歳 |
テルモ | 744万円 | 40.5歳 |
ホギメディカル | 586万円 | 41.6歳 |
メニコン | 511万円 | 38.5歳 |
(参照元:会社四季報 業界地図2022年版)
医療機器業界の動向
下記グラフは、一般社団法人日本医療機器産業連合会発行の医療機器産業の動向より、2017年の上場企業20社の売上高推移グラフになります。
(引用元:メディカルデバイス2017 医療機器産業の動向 - 一般社団法人日本医療機器産業連合会)
集計されている企業は上場企業20社のみですが、医療機器関連企業における売上高は継続的に増加傾向にあり、連結売上高に占める海外売上高比率も上昇しています。
日本国内では飽和している市場ですが、中国、アジア諸国等の経済発展に伴う医療機器市場の拡大や、各企業の積極的な海外戦略による事業環境の整備など、マーケットサイズの大きい海外市場を目指す事業戦略により、売上高は右肩上がりとなっています。
2.医療機器業界で求められる職種と人物像
このように医療機器業界そのものが様変わりしているため、そこで働くひとの環境や応募者に求められる資質も大きく変化しています。
課題解決力が求められるようになった医療機器営業
とりわけ営業職には顕著です。病院相手の営業といえば病院に足繁く通い、「壁のシミ」などと揶揄されながらも先生への接待を重ねて交流を深め、大型医療機器買い替えの時期に備える気合と根性の世界だったのですが、それはもはや過去の話。
商材がハード(医療機器そのもの)からソフト(患者データの管理ツールや医療ソフトウェア)に変化したことで課題解決型の提案スタイルが求められているのです。
採用に求められる資質としても「ガッツ」や「愛嬌」に加えて「論理性」や「提案力」、「ITリテラシーの高さ」が重視されるようになりました。
転職活動においても「足で稼いだ」経験より、「ドクターが診察で抱えている悩みを聞き出してソリューションを提示した」エピソードをアピールすると良いでしょう。
営業組織もIT化
IT化の影響は医療機器メーカーの商品だけでなく、マーケティング・販売戦略にも及んでいます。
昨今は多くの医療機器メーカーにCRM(顧客管理システム)やSFA(営業支援システム)が導入され、これまで人力で補っていた部分を代替しています。(ヘルスケア業界ではSalesforceのシェアが高いです)
インターネットを通じて病院からの問い合わせをいただけるよう、各社がオンラインでのブランディングや広告展開に凌ぎを削っています。医療機器系の商社ではこの傾向が特に顕著です。
「気合と根性」がインターネットに代替され、受注確度の高い顧客は顧客管理システムによって可視化される中、営業パーソン個人としての提案力が求められるようになっています。
3.医療機器業界の転職のポイント
激務を回避したいなら
よく「医療機器業界は激務」だといわれますが、これには少し誤解があるようです。
激務になりやすい職場かどうかは「商材」と「制度」によります。
(1)【商材】患者との距離が近い商材の営業はハードなことが多い
カテーテルやステントなど手術で用いられる機器やペースメーカーなど人の体内に埋め込むタイプの機器を取り扱う場合は医師に対してのレクチャーや手術への立ち会いが業務に含まれることも多く、これが負担になることがあります。
緊急時や不具合の発生時に病院に呼び出される可能性がある機器も同様です。
(2)【制度】導入時の立ち会いや緊急時のオンコール制度が整備されていない企業は激務になりがち
最近は前述の手術への立ち会いや機器設置時の説明が営業とは切り離されて役割分担されていたり、緊急時に現場に出向くための技術担当者が配置(オンコール制度)されたりしている企業も多いです。
検査機器ではなく「患者との距離が近い商材や緊急性の高い機器」を扱う企業への転職を望まれる場合はこの有無を確認するようにしましょう。
資格は必要?未経験でも大丈夫?
医療機器営業としての転職であれば特別な資格は不要です。
そのため異業種からの転職も可能ですし、実際業界未経験の方でも内定を得ています。
前述の通りハードな側面もある仕事ですが、平均年収は514.3万円(2018年のdodaの調査による)と高額で、社会的な意義も大きくやりがいのある仕事です。
ただし募集の大部分を占める医療機器営業としての応募の場合、異業種での営業経験と実績は必須となります。
「異業種営業職→医療機器営業職」の自己PR例
私は新卒採用向けポータルサイトの広告営業として3年間勤務して参りました。直近では10ヶ月連続の目標達成となっており、繁忙期には1000万円を超える売上を記録したこともあり、顧客数は100社以上あります。その中で医療機器メーカーの広告を扱ったことがあり、業界としては医療ビッグデータ法以来、提案型の営業が求められているという話に興味を持ちました。その中でも御社は医療機器に蓄積された患者データの活用システムの提供に注力されていらっしゃいますので、広告営業として培った課題解決力が活かせるものと思いご応募いたしました。
営業職は代理店を選ぶかメーカーを選ぶかはっきりさせよう
医療機器営業としての転職の場合、医療機器の代理店(商社)を選択するかメーカーを選択するかをよく考えましょう。
それぞれ特性が異なりますが、一長一短。
代理店は海外メーカーの製品を扱う商社であることが多く、その分お給料に占めるコミッション(歩合)の割合が高いので営業力に自信がある方にはおすすめです。
安定志向の方はメーカーの方が合っていると思います。
メリット | デメリット | 転職サービス | |
---|---|---|---|
代理店 (商社) |
・幅広い商材を扱える ・(売り上げれば)お給料が高い |
・外資が中心で成果を上げないと 待遇面に不安 ・英語スキルが必要になる場合も |
JACリクルートメント |
メーカー |
・国内大手が多く、 待遇が安定している |
・扱える商材が自社製品に限定される ・患者さんとの距離が近い商材だとハード |
パソナキャリア リクルートエージェント |
「医療機器メーカー営業職→医療機器代理店」の自己PR例
大手医療機器メーカーの営業職として5年間勤務しております。取り扱い製品としては血液透析装置が中心でした。望んで就職した医療業界ですし仕事にはやりがいを感じておりますが、自社製品しかおすすめできないため得意先の医師や病院にとって本当に必要な機器をご提案できない現状にジレンマを感じています。御社は大手代理店として多用なラインアップを取り揃えていらっしゃいますから、これまでの経験や顧客基盤を活かしながら医療機関の課題を解決する提案営業として活躍できるものと考えご応募いたしました。
代理店とメーカーではそれぞれ頼るべき転職エージェントが異なるので注意が必要です。代理店志望であれば外資の高年収求人に強いJACリクルートメント、メーカー系への転職希望であれば医療系国内の大手非公開求人を保有するパソナキャリアに登録すると良いでしょう。
パソナキャリアはメディカル系に強いキャリアアドバイザーが多いので安心です。
マーケティング職の求人は異業種、未経験からの転職組にチャンス
以前は医療機器メーカーの求人といえば営業職、でした。
実際、求人票の9割は営業職としての募集です。
しかしITによる商材や販売戦略の変化によってこうした情勢にも少しずつ変化が訪れています。
特にWebマーケティング、営業のIT化に携われる人材の確保は医療機器メーカー各社の課題です。
そのためこれらの職種については異業種からの応募でも内定をいただける可能性があります。
特に医療機器のマーケティング領域では「プロダクトマーケティング」という考え方が一般的です。
これは一般的に想起される自社マーケティングとは異なり、製品単位でブランディングや販促を行うという考え方で、医療機器分野では著名な医師の方や学会の専門家に向けての認知を深めるのが目的です。アプローチが似ているツール系ITベンダーのマーケティング職などで経験があれば良いアピール材料となります。
「中堅ハウスメーカーの営業企画→医療機器メーカー」の自己PR例
ハウスメーカーの営業企画として4年間勤務しております。ここ数年間のメイン業務は営業チームへのSalesforce導入とその運用です。古い体質の会社でしたからのCRM導入には大変でしたが、上層部の理解を得る機微や現場の反発を軽減して運用を浸透させる方法についてはかなり自信がつきました。運用が起動にのってからは受注率が●%改善しています。
医療機器業界でも今CRMやMAの導入が課題になっていると伺っております。前職では職務の延長でWebを通じたプロダクトマーケティングなども営業パーソン個人の活動量に依存していた営業組織へのCRM導入という意味でハウスメーカーでの経験は非常に近いものがあると感じましたので、ご応募させていただきました。
なお、人気企業のマーケティング職に関する募集はクローズドなレア求人であることが多いので、このルートを目指すならやはりパソナキャリアかリクルートエージェントを活用する必要があります。
4.医療機器業界での経験を活かして異業種にチャレンジする人も
医療機器業界出身者の活躍のフィールドは同業種だけにとどまりません。
業界内での経験を活かしてメガベンチャーのヘルステック事業やメディカルスタートアップ企業へ転職するのも従来は考えられなかった有力な選択肢の一つです。
一時的な年収ダウンは避けられないかもしれませんが、早期にジョインできた場合うまくいけばIPOも視野に入りますし、何よりスタートアップ特有のスピード感の中で別職種にチャレンジできるというやりがいが魅力です。
この場合もパソナキャリアに登録してメディカル系に強いキャリアアドバイザーに担当してもらうのがおすすめのルートです。