あなたは、事務、バックオフィス部門の業務を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)をご存じでしょうか?現在、大手企業の約4割が導入し、今後も需要が拡大していく見込みとか…。
一方、中小企業では、RPA化の対象になる事務部門から、「私たちの仕事がなくなるかもしれない!」と不安の声が上がっているとの情報も。
業務が楽になるのは助かるけど、仕事がなくなるのは困る。そもそも、RPAって何だっけ…?
これが本音ではないでしょうか?
この疑問にまるっとお答えいただくのは、RPA導入コンサティング業を手掛ける株式会社ミナルキの片岡さん。「RPAを導入したら、仕事はなくなってしまうんでしょうか?というかRPAって何が実現できるのでしょうか…?」…お話を聞いてきました。
(聞き手:中村 めぐみ)
Interviewee:株式会社ミナルキ 代表 片岡美紀(かたおか・みき)
バックオフィス業務改善 RPA導入コンサルタント。
2009年頃より、コールセンター・バックオフィス部門のスーパーバイザー業務を経験。2019年10月に株式会社ミナルキを設立し、中小企業向けバックオフィス改善・RPA導入コンサルティングを展開。
RPAについて根掘り葉掘り教えて頂く
片岡さん、今回は、話題のRPAについて、色々教えてもらえたらと思うんですが…。片岡さんが会社を立ち上げる以前、業務自動化の技術に出会ったきっかけを教えてください!元々、IT業界でお仕事をなさっていたんですか?
私は、派遣社員として、コールセンターのSV(スーパーバイザー)を任せてもらったのをきっかけに、業務の自動化にチャレンジするようになったんですよ。
SVといえば、オペレーターさんのシフト作成や、日報を作ったりするまとめ役ですね。
そこで任された業務は、コピー&ペーストの繰り返しなど面倒な作業がすごく多かったんです。私、根が面倒くさがり屋なので、「こういう作業はできればパソコンに全部任せたいなあ…」と思いまして。Excelで関数を組んだり、FileMaker、Accessのデータベースを組み合わせて、業務を自動化するシステムを作ったりしていました。
スーパー派遣社員の香りがプンプンします。
求められる役割は超えていましたね(笑)派遣される先々で、業務改善を続けていく中、大手保険会社がRPAを導入して業務を自動化しているという話を聞き興味をもちました。また、両親ともに病気に罹り、病院に行く機会も増えたため、「自分がいないときにも、代わりに仕事をしてくれるシステムはないかな?」とも考えるようになったのですよ。
時代の一歩先を行く感覚ですね。当時のRPAソフトウェアの効果はどのようなものだったのでしょう?
RPAが日本へ普及し始めた当初は、大企業がお試しで導入したものの、課題が多かったようです。徐々にソフトウェアが進化して、2017年ごろから働き方改革など政策の後押しもあり、RPAの加速度的な普及が始まりました。
ここ数年で、だいぶ注目されている印象があります。
大企業向けのソフトウェアに勢いがつくと、中小企業でも導入ができるお手頃なRPAソフトウェアも次々と発売されるようになりました。その影響から、当時お世話になっていた派遣先で、「RPAをこれから導入する企業が増えるだろうから、ちょっと検討してみよう」と試しに使ってみたところ、すごく取り入れやすくって。
事務作業の自動化といえば、Excelのマクロ機能が思い浮かびます。RPAとマクロの違いはなんでしょうか?
技術的には似ていますが、RPAは扱えるソフトウェアやデータの幅が広いんです。 マクロは他のソフトとの連携がむずかしいのに対し、RPA の場合は、「いろんなソフトウェアを横断的に自動化できる」のが特徴です。
えーっと、頭が混乱してきました。
一例として、経理担当の方なら、営業の社員さんの交通費精算のチェック業務が自動化できます。交通費の精算のチェックをExcelでおこなっている場合、
「営業から届いた交通費精算依頼のエクセルシートを開いて、乗り換え検索サイトへコピーして、検索して、検索結果を見て、合っているかどうかを確認する」
という流れだと思うのですが、これら複数のソフトウェアをまたいだ作業が自動化できます。もちろん1件ではなく、何十行もあるデータを、ノンストップで処理できますよ。
これはマクロにはできない作業ですね!作業時間はどのくらいかかるのでしょうか?
RPAの種類や動作を指示する方法によって、高速だったり人間と同じか少し速いくらいのスピードだったりします。ただRPAの場合は疲れないですし、「面倒だな、やりたくないな」という気持ちも起こりません。結果、人間よりも速く終わってしまうんです。これがRPAを導入するメリットですよ。
複数ソフトウェアをまたぐ、面倒くさい作業を代行してもらえるツールというのが理解できました。
このように、RPAの技術は、面倒くさい単純作業を抱える、どのバックオフィス部門でも重宝すると思います。
ロボットが勝手にやってくれる、という意味で、人工知能に近いものを感じるんですが、RPAと人工知能って同じものなんですか?
RPAと人工知能はまったく違うものなんですよ。たとえば、水の入ったペットボトルと、コップがあった場合、「ペットボトルに入っている水を、コップに汲んで飲むんだな」と判断できるのが、人工知能です。でもRPAの場合は、人間が、「ボトルの中にこのぐらいに水があったら、このぐらいのスピードで、コップのなかに入れましょう」と全部指示してあげないといけないんです。しかも、コップの中が水ではなく、ジュースになったら、動かなくなってしまうんです。RPAはまだ黎明期の技術なので、最終的には人口知能へ組み込まれるかもしれないという見方もありますよ。
分かりやす…!RPAと人工知能がまったく違うものであるのが分かりました。
事務職の価値は、RPA化できないところにあるんですよ
片岡さん、すみません、単刀直入に聞かせてください!RPAを導入したら、事務のお仕事はなくなってしまうんですか?
そんなことはないですよ。確かに、事務部門って経営層から「コストを下げろ」とか言われがちな部署なので、不安はごもっともですが…。RPAは、事務部門の仕事をなくす技術ではなく、むしろ事務の方を負担を減らして、余裕を持ってもらうためのものなんです。
負担減になるのはわかるのですが、「RPA 仕事を奪う」「RPA 仕事なくなる」で検索している人も多いようでして…。
RPAで実現できるのは、単純作業、ルーチンワークのみなんです。これまで、事務のお仕事を頑張っていらした方は、単純作業をしているように見えて、実はそうではないのです。たとえば、「資料を作りながら、電話を取りながら、来客応対をする作業を同時進行でこなす」ーーこれってすごいスキルですよ。
片岡さんが、そのように考えられるようになったきっかけは何かおありでしょうか?
以前、「営業事務スタッフのスキルが低くて、他社からクレームが来るから教育してくれないか」という依頼を受けたことがありました。一体どんな職場なんだろう?と実際に現場に入ってみると、言葉遣いは丁寧で、社内でシステムを作れる人もいて、商品に対する知識も充実していて、モチベーションも高いんです。
現場の上司の方がちゃんと見ていなかったんでしょうか?
いえ、その事務の方たちの課題、弱点は、業務負荷が高すぎるがゆえに、速く業務をこなさなきゃ!という焦りが、お客様への態度にも出てしまうことだったんです。上司の方はなんとか効率化し負担を減らそうと苦心していました。
圧倒的に損している…!でも、<事務部門あるある現象>ですよね。そういうのって。
また、休暇を取得する際に、「有給休暇を取って、申し訳ございません」と繰り替えしているのも、見ていて悲しかったですね。仕事を休むのは何も悪いことではないのに…。これを何とかしたいと思いました。
それも<事務部門あるある>ですね…。
その日のうちにやらないといけないルーチンワークが多いうえ、お客様対応が重なり、誰もが心の余裕を失っている状況だったんですね。当時、RPAはなかったので、自動化できた作業はほんの一部でしたが、それでも、心の余裕が電話の声に出るようになり、お客様からは「事務の方、変化してよかったね」と言われたそうです。
なるほど。RPAを導入するメリットが見えてきた気がします。
これまで事務を頑張ってきた方は、RPAを覚えると感謝されますよ。実際に、とある派遣社員の女性が、妊娠を機に、派遣先の業務をRPA化してから産休に入られたそうです。RPAを使って、居場所を確保してから休む、と。
産休が明ければ、業務も変わっているでしょうし、またRPAの出番があるでしょうね。
RPA技術によって、事務の方の立場が向上するといいなと思います。かつてWord,Excelスキルが高い評価を受けたように、RPAがビジネススキルの一つとしてかぞえられる時代もそんなに遠くはないでしょう。また、RPAが浸透すれば、子育て中の方や、介護が必要な方が、休みやすくなるんです。
と言いますと…?
事務の方が休めない、休みにくい理由って、ルーチンワークの締め切りが迫っているから、職場を離れるわけにはいけないという事情が多いのです。
忙しい時期に、保育園から「子供に熱が出たから迎えに来て」と連絡があっても、時間がかかる作業があって、他の人にしわ寄せがいく…そんな光景を想像したら、誰しも働くことに前向きになれないですよね。子育てと仕事の板挟み状態です。でも、ルーチンワークだけでもRPAに任せられたら、罪悪感を持たずに職場を離れることができるでしょう。
プログラムが勝手に働いてくれるからこそ、職場を離れられるのですね。
それに、人間しかできない仕事って、比較的と時間の融通が利く作業であり、今でしたらスマートフォンとかモバイルパソコンでもできる仕事が多いと思いませんか?
確かに、ちょっと頭を使う調べ物や問い合わせ対応、メールの返信や報告書の分析は、家でもできますね…!
今、<働き方改革>と言われてますけれども、早く帰ったり、休暇を取ったりするのは、ルーチンワークがあったらできないと思います。そして、この課題はロボットが解決できるのです。RPA技術は、働く女性や、これからご両親世代の介護リスクを抱える40代以降の方にとって、良いアシスタントになると思います。
お話を伺っていると、これからの時代にRPAは必要なツールになるような気がしてきました。とはいえこれまで、ルーチンワークを中心に頑張ってこられた方は、「突然RPAとか言われましても…」という感想だと思うんです。そんな方が目の前にいたら、どんな言葉をかけますか?
先ほどもお伝えしたように、事務の方が持つ、マルチタスク能力やポテンシャルは、本来高く評価されるべきスキルです。だから、「自分はスキルが低いのかな、ダメなのかな」と思わないでください。心配ないです、安心してほしいです。
「日本でRPA が普及している」と言っても、中小企業ではまだ、RPAを知らない経営層の方もいらっしゃいます。日本全体にRPAが普及するまで、しばらくかかるのではないでしょうか?本格的にRPAの波が押し寄せる前に、たとえば、エクセルの関数を覚えるとか、自分のできる範囲で業務の自動化に挑戦してみてはいかがでしょうか?実際 RPA が入ってきた時に、かならずそのスキルが活かせます。そして、RPAコンサルタントが職場にお伺いする際は、ぜひご協力をお願い致します(笑)
ありがとうございました。RPAそのものや、RPA導入のメリットについて、よく理解できました!
まとめ
派遣社員時代に工夫を重ね続けた先に、RPAコンサルティング企業を立ち上げ、事務部門を応援する片岡さん。今回のインタビューを通して見えてきたのは、業務自動化の技術を、ご自身だけではなく、周りの方の仕事を楽にするのに使い、そして事務部門を応援するという熱い気持ちでした。
後編では、そんな片岡さんに、RPA業界で働くことや、コンサルタントから見た中小企業へのRPA導入の課題など、より掘り下げてお届けします!
<後編 いま、RPA業界で求められる人材とは?ー専門家に訊く、RPA業界の未来予測 はこちら>