可能であれば円満に終わらせたい退職ですが、退職を申し出た際や退職後にトラブルに巻き込まれてしまうこともあります。
何も知らずにトラブルに直面して、右往左往しないように、退職の前によくあるトラブル事例については、知っておきましょう。
個人の退職は法律で守られている
退職を申し出た際に、企業が引き留めてくることは多いです。
その際に、「勝手に辞めるのは許さない」「辞めるなら損害賠償を請求する」などと迫られることもまれにあります。
このように迫られると不安になってしまいますが、安心してください。
「退職の自由」については民法や労働基準法で守られています。
退職に関しては、民法に定めがありますので、たとえ企業が退職願を受け取らなかったとしても辞めることができます。
退職の自由に関する法律
具体的な条文としては、まず民法第627条第1項に以下のような定めがあります。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
ただし、2点だけ注意する点もあります。
1つは、条文の「事者が雇用の期間を定めなかったときは」という記述についてです。
これは、正社員などの「無期雇用」の場合という意味です。
有期雇用の方はやむを得ない理由がない限り、一方的に契約を解除して退職することはできないのです。
ただ、有期雇用の方でも、契約から1年が経過した場合は、契約解除して退職することが可能となることが労働基準法第137条に定められていますので、心配し過ぎる必要はありません。
もう1つは、退職を申し出る時期についてです。
これは、民法第627条第2・3項において定められています。
月給制であれば、給与計算の対象となる期間の前半までに、年俸制など6か月以上の期間で報酬を定められている場合には、3カ月前まで次の期間以降の退職を申し出る必要があります。
例えば、給料の締め日が月末の場合には、月初から15日までに退職の意思を伝えれば、翌月に辞めることができるということです。
損害賠償に関する法律
また、損害賠償についても心配はありません。
労働基準法第16条では、「賠償予定の禁止」について定められています。
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
これにより、雇用契約の内容に「労働契約に違反したら違約金を払う・損害賠償をする」などの取り決め盛り込むことを禁止されています。
急に退職したという理由だけで、会社側から損害賠償を請求されることはないのです。
ただし、この法律は、企業から労働者への賠償請求を禁止するものではありません。
以下のように急に退職すること以外で会社に対して不利益を生じさせていた場合には、損害賠償が認められることがあります。
- 労働者が退職したことで、労働者側に故意又は過失による加害行為があること。
- 労働者の故意又は過失によって、会社に損害が発生していること
- 会社に発生している損害の原因が、労働者の故意又は過失によるものなのを客観的に立証できること
実際に退職者の行動によって損害が発生し、賠償の請求が認められた事例もあります。
退職者への賠償請求が認められた事例
ラクソン事件
退職者への損害賠償が認められた事例としてラクソン事件があります。
ラクソン事件は、退職時にほかの社員を引き抜いたことにより、損害賠償が発生した事例です。
退職する取締役員兼営業部長が、大量のマネージャー及びセールスマンとともに競合他社へ移籍しました。
セールスマンの勧誘においては、慰安旅行と称して社員を連れ出し数時間かけて移籍の説得を試みており、本人たちが移籍を決意する前から営業所の準備も行っていました。
この際、備品や業務書類の持ち出しも行っていました。
これを受けて、会社は取締役の忠実義務違反および不法行為に基づく損害賠償を請求しました。
本来、個人の転職の自由は最大限に保障されなければならないため、転職の勧誘は違法であはりません。
しかし、裁判所は、この事例においては、計画的かつ極めて背信的であり、違法な引抜き行為として不法行為に該当すると判断し賠償の請求を認めました。
この事例は、退職時のトラブルとしては規模の大きいものですが、この事例のように退職すること以外に大きな問題がない限り損害賠償は認められるものではありません。
BGCショウケンカイシャリミテッド事件
有期雇用者の退職時に発生したトラブルとして、BGCショウケンカイシャリミテッド事件
この事件は、有期雇用の契約期間中に合意なく退職し、競合他社に転職した事件です。
実際には、退職できていないため「契約期間中の業務放棄」および、競合他社への所属による「競合禁止義務違反」によって損害賠償の請求が認められました。
これは、退職者が民法第627条第1項を正しく理解しておらず、「一カ月前の退職通知により、一方的な労働契約の解除が可能」を思っていたことが原因です。
あくまで、有期雇用者が自由に退職できるのは、契約から1年が経過した後ですので、こうした大きな問題にならないためにも、気をつけておきましょう。