「転職活動に挑戦したいけれど、自分はこれまで大した仕事をしていないし、どうしよう…」とお悩みの転職志望者も多いのでは?
今回お話を聞いたのは、10年間に渡り、外資IT業界に特化した採用業務経験を持つ、李 勇希(りー・ゆうき)さん。
現在、米国サンフランシスコ発、急成長中の最先端データプラットフォーム企業であるSplunk Japanのリクルーティング全般を担当する李さんは、前々職の外資系転職エージェントでのIT業界特化チームにて採用スペシャリストとしてのキャリアをスタート。
6年間に渡り、外資系企業を中心に数万人規模のグローバル企業からスタートアップ企業の採用業務の支援を行ったあと、前職である日本オラクル株式会社で4年間、自社採用を経験。これまでに出会った求職者の数は数千名をゆうに超える。
経験豊富な李さんに「転職を成功に導くためのスタートライン」をお聞きしたところ、優しい目線で答えてくれた。
※発言はご本人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。
1.過去の自分の味方をする意思を固める
転職慣れしていない転職志望者に対して、レジュメの添削や面接対策のためのディスカッションなど、深く関わった経験を持つ李さん。まずは、自己アピールを作りこむマインドを固める重要性を語る。
転職が成功しやすいのは、『求められているポジションに対して、自らのセールスポイントを理解している人材』です。しかしはじめての転職に取り組む場合、過剰な謙遜をして、セールスポイントを言語化するのを最初から諦める傾向も。まずは求職者自身が、ご自身の味方となり、これまでの経験を言語化することが重要です。
リクルーティングに携わる中で、「自分は大したことをしていない」という求職者が多いことが気がかりだ。
たとえば若手プログラマの方に話を聞くと、『自分はJavaを5年間くらいやってきましたが、それだけ。大したことをしていないです』と仰るようなことがよくありまして。他には?と聞いても『特にありません』と。
本人のコメントから「売りどころ」が見えてこない場合は、角度を変えて丁寧にヒアリングをする。
過去に遡ると、『実はJava未経験からJava開発のプロジェクトに飛び込み、自学して習得をしつつ、その数年後には大規模な開発案件に参加していました。これってどうでしょう?』というエピソードが出てくることも。そういったエピソードは、今後新しい技術に対しても貪欲に学んで、プロジェクトに貢献してくれるかもしれないと、プラスの評価につながる可能性もあります。選考を通過する可能性を少しでも上げられるんです。『大したことはしていない』と自ら切り捨ててしまうのはもったいないな、と感じます。
仕事柄、プライベートでも転職の相談に乗ることもある李さんは、先日知人の紹介で、5年間働いたある建築会社を理不尽で一方的な会社都合で解雇され、次の一歩が踏み出せない求職者の話を聞いた。
経験を掘り下げていくと、『実は入社したばかりの頃、先輩がみんな辞めてしまって、ほぼ素人から5年間たたき上げて会社に貢献してきた』とのこと。その方は、我流で仕事を覚えてきたことに引け目を感じていたのですが、そこまでやり遂げるために、自らの力で学んできたことや、事情を知らないお客さんから厳しい言葉を向けられながらも食らいつくのは、簡単なことではないじゃないですか。辛い経験であったとも思いますが、新しい仕事を探す上で強みになることだから、胸を張って欲しいとその時は伝えました。
転職を考えるのは、未来をよくしたいという想いがあるからであり、仕事にも真剣に取り組んできた証拠でもある。そういった人材なら、セールスポイントは必ず見つけられる。
2.「S.T.A.R.」に沿って、キャリアを整理する
とはいえ、自らのセールスポイントは、客観的な意見がないと意識しづらいもの。これまで歩んできた道を面接で話せるようにするためには、事実に基づいて数字を伴った形で物語ることが重要だ。
少し大雑把な言い方になりますが、面接官のタイプは大きく分けて、共感型、分析型に分かれると経験上感じます。
面接官のタイプ | 響くポイント |
---|---|
共感型 | ストーリー性のある言葉(「やりたい」「自信を持っています」) |
分析型 | 明確な数字やプロセス |
実際は、『共感は70%で分析は30%』『共感20%で分析が80%』…など、1人の面接官の方が2つのアプローチを使い分けています。どちらにも通用するように、キャリアのプロセスを、事実を基に具体的に、目に浮かぶように話せるようになることを目指しましょう。
客観的な視点を持って、キャリアを整理していくためにはどうすれば良いのだろうか?
自分のセールスポイントを言語化し、面接の場で話せるようになるためには、『S.T.A.R.』コンセプトを用いて、過去の実績を整理し、事実を基に話せるようにすると良いですよ。
『S.T.A.Rコンセプト』とは、本来は採用する側が、求職者のスキル・実績の本質に迫るための4つのポイントをまとめたものであるが、このメソッドを求職者も活用することで、初対面の面接官にわかりやすく話すことが可能だ。
「Situation」
在籍した会社、プロジェクトの規模、決裁権限、予算、体制、競合関係、大手かベンチャーか…など、環境について言語化する。キャリアの背景を言語化することで、初対面の面接官に対しても、求職者の置かれた状況を丁寧に言語化していくことが可能である。
~社のセールスとして一番大きな実績を出せたプロジェクトは~です。これは~億円の受注となり、その年のチームの中で最も大きな売り上げをあげた案件の一つでした。
「Task」
与えられたミッションや課題を明確にする。
私はその時~業界の~製品を扱うチームにて、チームリーダーをしていました。この中での私の担当業務は新規開拓としての営業でしたが、特に最初のステージで重要になったことです。顧客対応の最初の窓口となること、そして顧客の意思決定者との関係を構築することでした。
「Action」
「Task」に対して、実際に何を考え、どのような行動を起こしていたか、を伝える。
そのミッションの中で私が行ったことは、まず~社の~部門の方と関係を作ることからでした。もともと~の課題を持ちやすい業界であるということは認識しており、競合である~社が新しいシステムを入れたという記事が出回ったこともあり、その競合を非常に意識している~社が刺さるであろうポイントを用意しました。
「Result」
「Action」の結果どうなったかを、具体的な数字で表現する。
〇千万円の受注を獲得致しました。
S.T.A.Rコンセプトに基づいてキャリアを整理、言語化することで、求職者自身のストーリーを語ることができる。大規模なプロジェクトでは貢献度が見えにくいかもしれないが、それでも自らが選んだアクション、挙げた成果を伝えることが大事だ。
面接での伝え方のポイント
ここで大事なポイントは、実際に面接で話す順番です。最初に結論を伝えてから、S.T.A.Rの順番に基づいて話をするとより伝わりやすいです。Situationから切り出してしまうと、面接官は何の話をされているか追いにくく、効果が薄れます。
結論+S.T.A.Rをつなげると、このようになる。
〜のプロジェクトで〜円の受注を勝ち取った話をお話ししますね。(結論)
~社のセールスとして一番大きな実績を出せたプロジェクトは~です。これは~億円の受注となり、その年のチームの中で最も大きな売り上げをあげた案件の一つでした。私はその時~業界の~製品を扱うチームにて、チームリーダーをしていました。(Situation)
この中での私の担当業務は新規開拓としての営業であり、特に最初のステージで重要になったのは、顧客対応の最初の窓口となり、顧客の意思決定者との関係を構築することでした。(Task)
そのミッションの中で私が行ったことは、まず~社の~部門の方と関係を作ることからでした。もともと~の課題を持ちやすい業界であるということは認識しており、競合である~社が新しいシステムを入れたという記事が出回ったこともあり、その競合を非常に意識している~社が刺さるであろうポイントを用意しました。(Action)その結果〇千万円の受注を獲得致しました。(Result)」
自分の意思で選んだこと、果たした役割を話せるようにするのが重要です。特にこだわって行ったアクションや、これだけは誰にも負けないと言えること。それが、その人の強みを売り込むことにつながります。
S.T.A.R.コンセプトを用いて自らのキャリアを言語化することでだいぶ、「自分には何もない」という不安からは解放されるだろう。これは面接テクニックと言うよりも、面接前に頭の中を整理すると言う、テクニックよりもずっと重要なことができる手法だ。
3.転職を繰り返していることを強みに変える言い方
自分の強みが見えないまま、転職を繰り返した経験を気にする求職者は多い。これまで何度かのキャリアチェンジを経験している場合は、どのようにまとめれば良いのだろうか?
転職回数が多い場合、【転職した】という出来事の点だけに面接官の注意が行ってしまい、マイナスにとられてしまう可能性は否めません。しかし、書類選考を通過し、面接の場が設けられているということは、少なくとも興味を持たれているということ。プラスに転じるための言い方がないわけではありません。
李さんがおすすめなのは、これまでやってきた、やろうとしてきたことの一貫性を話し、その一貫性を守るために転職をする必要があった、という言い方を持っておくことだ。
たとえば会社都合で転職をせざるを得なかった場合は、「本来これをやるために入社をしたが〜」と補足説明をした上で転職の経緯をお話しすることをお勧めします。
その人が何をしたく、どんなことなら長く貢献できる人になるかが見えてくるかが伝われば、面接官にとって「またすぐ転職してしまうのでは?」との懸念も払拭できるだろう。
外資系では、はじめに直近のスペシャリストとしての経験を聞き、その経験を作った根拠として前職での経験、そして関連しそうであれば大学や専門で学んだことに深堀りしていくことが多いです。そのため、社会人経験が10年以上の方であれば、一社目の経験からお話をすることは冗長になるのでお勧めしません。しかし、細かく聞いてくる面接官もいるので、話せるように準備はした方が良いでしょう。
「面白い経験をしていても、自信を持って話せない人がとても多くいます。もったいないですね。どんな方にも、これまでのキャリアの中で必ず乗り越えたこと、マイナスをプラスに転じた経験が必ずあります。それを見つめて、しっかりをアピールして欲しいです。そのために、S.T.A.R.コンセプトはとても役に立つと思いますよ」