プロ奢ラレヤーさんのこんなツイートがバズっていました。
すべての就活に失敗マンが奢りにきたときに思ったけど、就活マジで危ないわ。メンタルが破壊される。「失敗したらヤバい」という切迫感の強い人が、短期間に連続で「キミは価値がないよ」と伝えられる。就活に失敗しても人間は死なないのに、本人は死ぬと思いこんでるから本当に死んでしまう。危ない。
— プロ奢ラレヤー🍣ぷろおご (@taichinakaj) October 20, 2019
ああ、これは、入社後の社会人にも通ずる話だなと感じました。
実は私、ビジネスシーンの至るところで要求される「キャリアプラン」というものに対してちょっぴり懐疑的なのです。
もうキャリアプランを書かされるのはウンザリだ!!
会社上司
研修講師
転職面接
なぜ、世の中のビジネスパーソンはこうも「キャリアプラン」「キャリアデザイン」という言葉が大好きなのでしょうか。
なぜ人事部や管理職は、エクセルに未来の日記を入力させればやる気になると思えるのでしょうか。
3年後に会社や業界がどうなっているのかすらわからないし、もしかしたら自分の仕事がなくなっているかもしれないのに。
夢は、叶わない
世間一般に語られるキャリアデザインの方式は、キャリア・アンカー理論と言われ、
「どんな働き方をしたいか、どんな人生を送りたいか」を自身に問いかけ、「夢・願望・ゴール」を鮮明にしてそこから棚卸し的にプランニングするというものです。
思い返せば私自身、12年前に人事系ベンチャー企業に新卒入社した時は「キャリアプラン」の盲信者の一人でした。
見返すと誠にお恥ずかしい限りなのですが、新入社員研修で私が紙に書いたキャリアプランは簡単に言うとこんな感じでした。
1年目は新人賞
↓
3年でトップセールス
↓
マネージャーになってまた3年間経験を積んで
↓
新規事業を立ち上げる(自分のプロダクトを作りたい)
純粋無垢だったわたくし片川青年は上記の青写真の達成を信じて疑わず、1日最低50本のテレアポと週12件の顧客訪問を3年間こなし続けました。
果たして現実はと申し上げますと、3年間トータルでの受注したのはわずか3社、売上高は200万円足らず。
この成績、「3年間で」です。会社もよく耐えてくれていたと思います。
新人賞どころか同期の中でもダントツもダントツ、ぶっちぎりでビリの成績で、
最後の方は焦りと緊張から営業先に伺うだけで滝のような汗が吹き出してくるありさま。
会社にも申し訳なく、
本当にボロ雑巾のような気持ちで、
失意の中逃げるように退職しました。
その後、半年近くの間フリーターとしていろんなところを転々とする日々を過ごしました。
その時私は確信しました。
人には向き・不向きがある。だから、「願えば必ず叶う」「夢は必ず実現する」というのは幻だと。
もし自分に向いていない夢を信じて努力し続けてしまったら、それはむしろ人生にとって最大の不幸だと。
望んだ夢が叶わないと認識したとき、人は絶望し、挫折します。
冒頭のご紹介したツイートの就活生はまさにこんなイメージなのでしょう。
もちろん世の中には「夢に日付を」入れてプラン通りにステップアップしてきた方がいることは事実です。
海外で大成功したプロスポーツ選手の書籍にもそのようなエピソードを読んだことがあります。
これは紛れもない事実で、キャリアプランを描きそれに忠実に努力し続けるという方法が合う方もいらっしゃることでしょう。
それが合う方はそれでいいと思います。むしろそのままどんどん進化を続けていただきたい。
でも、世の中には私のように思い描いたキャリアプラン通りに進めない人もたくさんいると思うのです。
時代背景に合っていない
いまの時代は作れば売れた = やればやるだけ出世できた時代とは明らかに違います。
昔と違って商品ライフサイクルが短いため、プロダクトに合わせて組織体系がコロコロ変わります。
キャリアをしっかり言語化できたとしても、突然異動を命じられるかもしれません。
また、人事界隈では「ロールモデルが作りにくい時代」と言われます。
必要なスキルセットの進化と変化が異常に早いからです。
上司をお手本にしてキャリアプランを描いても、3年後にはその人の持つ技術すら時代遅れかもしません。
来月のマジック・ザ・ギャザリングの禁止カード予想すらできないのに、3年後の自分の未来を描こうなんてどだい無理なことです。
だから私は、やる気を引き出す魔法のステッキみたいにキャリアプランを使うのは横暴だと感じてしまいます。
何が、私を救ってくれたのか
まったくプラン通りに進まなかった私のキャリアですが、なんとか拾っていただき入社したWeb広告系の会社で転機が訪れます。
きっかけは転職したその年の忘年会終わりに乗り込んだタクシーの車中での、先輩からの一言です。
「片川くんは好奇心がなさすぎる。このひとのブログとか、この人のTwitterとか、チェックしていないでしょう?ぜんぶ超有名人だよ?」
「そんなんでWeb屋だなんて、笑われるよ」
そのときは恥ずかしさや悔しさが同時に溢れてきましたが、まったくの事実だったため何も言い返すことができず、
半信半疑で先輩に言われるがままにおすすめブロガーをRSS登録(当時はみんな使っていたものです)しました。
ところがこれが、どれもまた掛け値なしに面白い。
それ以来さまざまな情報に触れまくるようになった私はいつの間にか社内で有数の業界事情通になっていました。
その勢いでコーポレートメディアや新規サービスをはじめたことでさらに自分を取り巻く環境が変化し、
いつの間にか最終的には独立することになっていました。
まさか自分が経営者になるとは、新卒のころは夢にも思っていませんでした。
プランド・ハップンスタンスという考え方
突然ですがみなさんはプランド・ハップンスタンス(Planned Happenstance、計画的偶発性理論)という言葉をご存知でしょうか。
上記のような体験をして以来、私が大切にしている考え方です。
プランド・ハップンスタンスとは
計画された偶発性理論(英語: Planned Happenstance Theory)とは、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授らが提案したキャリア論に関する考え方。
個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される。その偶然を計画的に設計し、自分のキャリアを良いものにしていこうという考え方。
(出典:Wikipedia)
少し乱暴に言い換えますと、
キャリアは偶然に支配されている。
だから思い通りにいかなくてもそれが普通、気にすんな。
むしろ方向転換をどう捉えるか、その時のスタンスこそが未来にとって大事なんだ。
といったところでしょうか。
絵にするとこんなイメージです。
この理論の提唱者のジョン・D・クランボルツさんご自身が、もともと心理学の教授になるつもりなどなく、
たまたま進路を相談したテニス部の顧問が心理学者だったことがきっかけであると語っているのも面白いですね。
私の場合は自分自身の未熟さが原因でキャリアプランからの脱落を余儀なくされたわけですが、
もとより大した才能も無い私が、そこから立ち直って起業することになるなど夢にも思っていませんでした。
すべては飲み会での先輩のアドバイスという偶然がきっかけです。
あがいた経験は無駄ではなかった
そして何より驚かされるのが、新卒入社から営業パーソンとしてさっぱり売れなかった日々の経験が、
まったくの異業種に転職してからずっと、ものすごーく役にたっているということです。
転職先では内勤の営業サポート的な部門に配属されました。
もともと自分が売れなかったものですから、同僚の営業パーソンのつらい気持ちがよくわかります。
最初の内はそれで随分とかわいがっていただいたものでした。
技術がついてきたこともありだんだんと営業同行に呼ばれる機会が増えてきましたが、
そこで最初の職場での反省点を活かしてお客様と接するようにしますと驚くほど喜んでいただけました。
商談の席につくだけで滝のように流れていた汗も、気づけば止まっていました。
不思議なものですが、今となっては最初の3年間に私の成績が振るわなかった原因を事細かに説明することができます。
(突き詰めるとポイントは「必要の無い方にセールスしない」という単純なことなのですが、当時の私は無駄に行動量を追求してばかりでしたね・・・)
営業として成果が出ない時期は辛く、暗いトンネルを歩いているような沈んだ気持ちでしたし、
まったく人に誇れるような経歴ではありませんが、
これまた偶然にもジョブチェンジした先でその苦労が報われたのです。
偶然性を味方につけやすい人
ひとつ、注意点があります。
プランド・ハップンスタンスは受け身でいれば良いという意味ではありません。
論文では、偶然性(幸運、と言い換えてしまっていいと思います)が起こりやすい方には以下のような特徴があると語られています。
その計画された偶発性は以下の行動特性を持っている人に起こりやすいと考えられる。
1.好奇心 [Curiosity]
2.持続性 [Persistence]
3.柔軟性 [Flexibility]
4.楽観性 [Optimism]
5.冒険心 [Risk Taking]
(出典:Wikipedia)
待っているだけでは幸運は訪れない、ということでしょうか。
私の体験に当てはめてみますと、
先輩に「好奇心」という第一の行動特性の欠如を示唆していただき、
酒席だったということで「柔軟性」をもってそれを受け入れることができ、
(根性だけは最初の職場で鍛えられたので)「持続性」をもって取り組めたことが、
挫折を乗り越えて今日までなんとかやってこれたポイントなのかなあと。
もっとも私の場合はすべて偶然で、特に意識していたことではありませんが。。。本当に運が良いことです。
ちなみにこの感謝してもしきれない「先輩」というのが、いまや我が社の副社長だったりします。
未だに飲むたびにこの時の話をするのですが、本人はまったく覚えていないらしいです。
これもまた、彼にとってのプランド・ハップンスタンスなのかな?
結び
キャリア・アンカー的なアプローチでも、プランド・ハップンスタンスでも、自分に合った考え方でいい。
どちらにも共通することは今、真面目にがんばっていることはけっして無駄ではなく、必ずなんらかの未来につながっているという点ではないでしょうか。
私も「成長する人の思考パターンは一律ではない。ひとそれぞれキャリアの描き方がある」ことを前提に、若いメンバーに対する接し方や組織のあり方を考えていくつもりです。
受託のプロジェクトなどで20代の方と一緒にお仕事をさせていただく機会がよくありますが、
知識の豊富さと勤勉さ、情熱やひたむきさにいつも驚かされます。
未来ある若いビジネスパーソンの皆さんが、
時代の変化や組織の不条理に振り回されることなくいきいきとしたキャリアを歩まれることを願っています。