好きなことを、描き続けていくためにー「ミリオンドール」漫画家:藍が形を変えても描き続ける理由


ライター:奥野 佑樹
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好きなことをずっと続けていくのは、簡単ではありません。「仕事」として取り組み続けるとしたら、なおさらです。

今回話を聞いたのは、漫画家の藍(あい)先生。

藍先生は、現在Webメディアcakesにて、地下アイドルの世界を描く漫画「ミリオンドール」および、藍先生ご夫婦の日常を綴ったエッセイ漫画「ヲタ夫婦 〜アイドルヲタクの結婚生活〜」 を連載中です。

10代の頃、少女漫画雑誌から漫画家としてデビューした藍先生は、一度漫画の世界を離れ、数年間のアルバイトや会社員生活も経験。

2013年よりWeb漫画アプリにて、地下アイドルの世界を描いた「ミリオンドール」の連載をはじめたのを機に、漫画家として再出発。2015年にはアニメ化まで至るも、発行部数に対して売れず絶版になるなど、悔しい想いも味わいます。

しかしこの経験を乗り越え、2018年に自費出版として復活。アイドルイベント「あいさんのかわいいこまつり」を主催し単行本を特典としたチケットを販売したり、クラウドファンディングにてドラマCD付特装版の単行本の製作プロジェクトにも挑戦したりするなど、作品を広めるために新しい取り組みを続けています。

形を変えても地下アイドルの世界を描き、独自の方法で広め続ける。その想いの強さはどこから来るのか、これまでの歩みに迫りました。

 

会社員としての経験が、大きな財産になりました

ーー地下アイドルについて予備知識がなくても、現場の楽しさが伝わってくる「ミリオンドール」の世界が大好きです。10代という比較的早い時期に漫画家としてデビューしながら、一度漫画の世界を離れたのはどうしてでしょうか?

藍:
業界に入ってみて、出世街道である連載作家になるのはハードルが高い現実を知りました。アシスタント先で知った自分の稚拙さや、社会常識が欠けている部分、自分の興味と媒体のカラーの折り合いをつけることが難しかったこともあって、そこで「私には才能がないんだな」と一度諦めました。

ーーなるほど。「せっかくの夢の仕事に就けたのだから、もう少し粘ってみよう!」と考える人も多いと思います。

藍:
周りを見ていても、読み切りから連載作家になるのに10年かかるのが当たり前の世界で、それでもちろん成功する方も多くいらっしゃいますが、私の場合、もし10年間漫画だけに費やしていたら、社会常識もなくて人としてダメになるだろう、と考えました。自分の中で何かが足りないという自信のなさや、引き出しも広げる必要を感じていたので、社会人への道を歩みました。

ーーなるほど、元々クリエイターとしての目線と、ビジネスパーソンとしての目線の両方をお持ちなのですね。その後数年間、社会人として働いたとのこと。この経験が作品作りにフィードバックされていることはありますか?

藍:
会社員をしていたことは、とても財産になったと思います。お茶くみのような仕事から上流工程の仕事まで、幅広く経験して、社会常識もビジネス感覚も身につきました。

そして、毎朝駅でお財布を気にしながら、「今日は自販機で飲み物を買おうかな?どうしようかな?」と迷いながら満員電車に乗って、携帯電話でニュースやゲームに没頭しながら会社に向かう。そんな普通の生活を送る中で、「日常にどんな娯楽があったら楽しいか」「人はどういうことで悩んだり、仕事に行き詰まったりするか」を身をもって学べました。

スマートフォンの時代に「漫画家募集」の求人広告を見つけて

ーーその後、漫画の世界に戻ってこられたのは、どのような想いからでしょうか?

藍:
大好きな地下アイドルの世界をもっと広めたいと考えたからです。。社会人経験を積む中で辛いことがあったとき、アイドルさんたちの世界に触れるのが心の支えでした。その世界を「もっと多くの人に届けたい、世に還元したい!」と思い、好きなアイドルさんを紹介する同人誌を作っていたんですけれども、これを仕事にしたいと考えながらも、趣味のままでとどめていたい気持ちもあり、どうしようかな?と考えていた時期がありました。

ーーなるほど。地下アイドルの世界を題材にし、アニメ化まで至る「ミリオンドール」ですが、最初に作品を発表するチャンスはどのように訪れたのでしょうか?

藍:
会社の朝の習慣で、ニュースをチェックしていた時に、「漫画家募集」の求人広告を見つけたのがきっかけでした。スマートフォン向けの新たなWebアプリ漫画媒体の立ち上げにあたり、作家を募集している、という内容だったんです。

ーー当時(~2013年ごろ)は、Web漫画といえばブラウザで読む方法がメジャーだった記憶があります。新しい世界に飛び込むことに抵抗はなかったのでしょうか?

藍:
仕事を通して、Androidスマートフォンの進化と普及の過程を目の当たりにして、大きな可能性を感じていて、ぜひ挑戦してみたいと思いました。というのも、2年程勤めていた通信系の会社で、当時まだ無名だったAndroidスマートフォン関係の部署に配属されたのですが、その頃は国内でスマートフォンの流通がはじまったばかりで、当初は、トラックボールがついた今とはまったく違う機種を扱って仕事をしていました。


(国内初のAndroid搭載スマートフォンHT-03A。端末下部に付いたトラックボールでの操作が前提となっていた)

しかし、初代のGalaxyが発売された辺りで、Androidスマートフォンが爆発的に普及するようになり、電車でスマートフォンを使う人も増え、時代の流れを感じました。

そして当時まだマンガを定期的に読めるアプリはなかったので、「これは新しい取り組みになるから、飛び込んでみたい!」と思い、当時一番描きたかった地下アイドルを題材にした企画を持ち込み、専属契約に至りました。その時の企画が、ほぼそのまま現在の「ミリオンドール」となっています。

ーー「地下アイドルの世界を必ず世の中に出す」という強い意思を感じます。Web漫画アプリでの連載時の環境はどのようなものでしたか。

藍:
Web漫画アプリの仕組みが始まったばかりでもあり、慣れない環境に戸惑うこともありましたが、編集さんを巻き込んでSNSで企画をしたり、アプリ媒体の知名度を上げる提案をしたりなど様々な取り組みもできました。

また、Web漫画アプリを運営している会社内に、自由に使える作画スタジオがあり、同じようにWebアプリ漫画の世界に個性的な作家さん達との交流の場を持たせていただいたことも、ありがたかったです。異なるバックグラウンドを持った漫画家同士が集まると、受ける影響はとても濃いものになるんです。

その仲間たちと、スマートフォンの時代ならではの悩みもたくさん共有しました。「コメント欄が荒れてる」とか「SNSどれだけやればいいんだろう」とか。同期だけど、戦友でもある、あの時のような関係は、後にも先にもないと感じています。

波乱万丈のなか「ミリオンドール」を続けてこれたのは

ーー「ミリオンドール」は一度、絶版にもなりましたね。当時を振り返っていかがですか?

藍:
絶版になったのを知ったのは、実際に絶版になった時よりずっと後でした。

2017年に、ミリオンドールを書籍化したいと別の出版社さんからお声がけいただいた時、その編集さんが調べてくださって絶版になって断裁処分されていると知りました。
結果的にその出版社さんとのお話も、会社の統合や方針変更でなくなってしまいましたが、その時に、「ミリオンドールを、絶版になった過去の作品じゃなくて、ミリオンドールで私の人生を楽しくしていけばいいか。自分で好きにやろう」と考えを変えて、前向きになれました。

また、アニメへ出演して盛り上げて下さった声優さんたちへの感謝の気持ちがとても大きかったです。

中でも思い出深いのは、作品を取り巻く色々な事情があり自由にミリオンドールを描けず追い込まれていた時期に、主人公のすう子役を演じてくれた楠田亜衣奈さんのファンクラブイベントのためにミリオンドールの朗読劇を書かせていただいたことです。

楠田さんは、「私はミリオンドールが良い作品だと思うから続いて欲しいし、知られてほしい」と言ってくださり、その脚本とイラストを発注してくださったんです。

そのファンクラブイベントの会場は品川ステラボールでした。あんなにも大きい会場に来場したファンの方の多くが、すう子の朗読劇を聞いて、感動して泣いてくれる姿を目の当たりにして、すごく心に響くものがありました。

そのイベントの後、出口で配布されている朗読劇のチラシを、楠田さんのファンの方が手に取って、「良い朗読劇だった! 藍先生ありがとう!」と言いながら帰っていくんです。私が、今ここにいるって、知らない人たちが…。

その光景を見て、「今ここで死ぬなよ」って誰かに言われた気がして、描き続ける元気をもらいました。だから楠田さんにはすごく恩があります。

再起するために、他の作品を創ってまたヒットを狙うこともできるけど、ミリオンドールは既に多くの人が関わっていて、応援してくださる方もいるのだから、原作者として、ここで私が折れたらいけないんじゃないか、という思いを強く持つようになりました。

好きな世界を描き続けていくために

ーー2018年から自費出版として復活し、アイドルフェス「あいさんのかわいいこまつり」を主催して単行本を特典としたチケットを発売したり、ドラマCD製作のためのクラウドファンディングを企画したりなど、企画、プロデュース色の濃い活動も展開していますね。

藍:
自費出版は、出版社さんから書籍化のお話が流れてしまったことで、逆に好きに楽しく自分でやればいいと、前向きな気持ちでできたことでした。

そしてその自費出版した書籍をどうやって売っていくか、知ってもらうかを考えたときに、方法の一つとしてアイドルのライブイベントを主催して、そこで本をチケットにつけて配ることを思いつきました。ミリオンドールはアイドルの話だからアイドルファンの方に読んでもらえたらありがたいし、私自身、アイドルが好きなので、やりがいをもって主催にも取り組めそうだったので挑戦し、池袋Space emoさんのご協力により実現しました。

ーードラマCDの製作にもさまざまな方が関わっていて、周りの方たちからも愛されている作品なんだな、と感じています。

藍:
ドラマCD製作のクラウドファンディングも、自費出版を盛り上げるために、色々な人に協力してほしいと声をかけて、お願いして実現できた座組でした。何より私が、もう一度テレビアニメのキャストさんと作品を作りたかったんです。

クラウドファンディングが成功するかわかりませんでしたが、結果的に色々な方のご協力とご支援を頂けて達成できて本当にありがたかったです。

ーーこれらの取り組みを見て、「自己プロデュースの漫画家」としてお声がけされる機会も増えているそうですね。

藍:
自己プロデュースをしているつもりはなかったのですが、そういった切り口でも取り上げていただけて、純粋にありがたいなあ、という想いです。ただ「勝算があるからやってみよう」というよりは「できそうだから、やりたいから、成功するかわからないけれど、作品を広めるためにできることをやってみよう」という想いで取り組んでいます。

そんな向こう見ずな私に対して、協力してくださる方や、支援してくださる方がいつも現れてくださったおかげで、これまで漫画家としてのキャリアを歩み続けることができました。

苦しい時に、支えになってくれた読者さんたちへ

ーー最後に、愛読者の皆様へメッセージをお願い致します!

藍:
私のこれまでの取り組みは、いわゆる普通の漫画家さんがやっていることとは違っている部分が多いと思います。自分が漫画家の王道を行っているという自覚もないし、どちらかというと邪道なこともしていると思います。だからこそ、苦しい時に支えになってくれた読者さんたちに、本当に感謝しています。

ミリオンドールは、熱い声を上げてくださる読者さんが常に一定数いてくださったから、「楽しみにしてくださる方たちのためにも、作品をあきらめるわけにはいかないな」と踏ん張り続けて来れました。未来のことはわからないけれど、少なくとも今は、作品を楽しんでくれている方がいるんだ、といつも感じています。

これからも色々な形で挑戦していくし、賛否両論ある活動もあるかもしれないと思うので、読者の皆様には、病まない距離感で見守っていただけたらありがたいです。

そして、2020年は、5月にリリースする予定のドラマCDを、多くの人に届けるために、準備を進めています。ドラマCDをきっかけに興味を持って読んでくださる新たな読者さんとの出会いも楽しみですし、今まで応援してくださった方も、ぜひドラマCDを広めていただけたら嬉しいです。

新しい読者の方にとっては、ミリオンドールには知らない世界のことがたくさん描いてあると思いますし、拙い部分もたくさんあるんですけど、何か自分の人生に得られるものを感じてくれてたら本望だなと思います。

そして、もうひとつの連載作品、「ヲタ夫婦」のことも応援してくださる皆様も、本当にありがとうございます。これからヲタ夫婦でも出版社の方と一緒に色々な挑戦を考えているので、楽しみにして頂ければ幸いです。

(聞き手/テキスト:中村めぐみ @Tapitea_Rec 撮影:奥野 佑樹 @Seiren_GA

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藍先生Profile

藍(あい)/INDIGO PRODUCTS

1986年7月26日生まれ、福岡県出身、漫画家。
10代で漫画家としてデビュー。2008年に上京し、漫画家としての下積み時代をアルバイトを掛け持ちしながら過ごす。その後就職し、通信系企業やWEB製作会社にてスマートフォンやWEBサービスの運用に携わる。2013年より、Web漫画アプリにて地下アイドルの世界を描いた「ミリオンドール」の連載を始める。2016年よりWebメディアcakesにて「ヲタ夫婦 〜アイドルヲタクの結婚生活〜」の連載を開始、2019年より「ミリオンドール」の連載をcakesに移籍、続編を連載中。

代表作「ミリオンドール(自費出版レーベルINDIGO PRODUCTSより既刊5巻)」「ヲタ夫婦(出版ワークス、既刊2巻)」。

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