「大学職員の仕事」と聞いて、もっともイメージしやすいのは教務課で働く職員ではないでしょうか。なぜなら、教務課では大学の講義や学期末試験に関わる業務に加えて新入生ガイダンスなどを行うため学生にとってなじみがある部署だからです。
この記事では現役の大学職員が教務課の仕事内容を紹介します。この記事を読むことで学生が知らない教務課の窓口の奥で行われている仕事がわかり、大学職員の仕事内容を知ることができます。
教務課で働く大学職員は黙々と事務作業だけをしているというイメージは現実とは大きく異なります。人と話さない日はないと言える教務課の仕事内容をみてみましょう。
大学の教務課は学生支援から成績管理まで幅広い仕事をする
教務課といえば大学窓口の奥に座ってパソコンで仕事をしている人々を想像すると思います。そんな教務課で働く大学職員は非常に幅広い業務を行うため、守備範囲の広さが重要です。
教務課の仕事内容をいくつかあげると以下のとおりです。
- 大学授業に関わる仕事
- 学生の成績管理に関わる仕事
- 学生の学籍情報に関わる仕事
- 新入生の入学手続きに関わる仕事
- 奨学金に関わる仕事
- ゼミ合宿補助など各種制度に関する仕事
- 学生相談
教務課はこれらの幅広い業務を行うため、大学の中でも勤務する大学職員が非常に多い部署のひとつです。
教務課の中でもそれぞれがグループになって仕事を進めており、ひとりだけで完結する仕事が少ないという特徴があります。
同じ教務課の大学職員同士がお互いの進捗を確認し合って、学生の情報を共有しなければ業務がうまく進まないことも多々あります。
学生に関わる教務課の仕事はどんなことをしているのか順番に確認してみましょう。
教務課では入学までの手続きをサポートしている
教務課では新入生や留学生の入学手続きをサポートし、入学手続き書類の審査を行っています。
学生情報を管理している教務課では新入生の情報を正確に大学の情報システムに取り込む必要があるため、入学時の手続き書類として住民票などの書類提出を学生に求めています。
これらの入学手続き書類のチェックを教務課で行っています。ただし、入学試験に関わる願書などの受付は入試課が一括して行う大学も存在するので連携が欠かせません。
特に留学生の入学手続きについては国際交流課が中心となって留学ビザの申請手続きや学生基本情報の回収を行います。
教務課で行う入学手続き業務は関係する他部署とのやり取りが必要なため所属する部署の枠組みを超えて業務を行っている様子がわかります。
大学として新年度の開始日までに、これから入学してくる新入生すべての学生情報を正確に回収する必要があるため、年度末の1月から3月にかけて教務課は非常に慌ただしい繁忙期を迎えています。
履修登録と時間割の作成を行っている
教務課でメインとなる業務は大学講義や演習に関わる仕事です。
学生は学期の始めに履修登録を行うことで講義や演習に参加することができます。
学生数が10,000人規模の大学の場合は、処理件数の観点で紙での履修登録は受け付けることができないため、大学の専用システムを使って学生が自分でパソコンを利用して履修登録を行います。
教務課では新年度の開始に向けて、履修登録のシステム環境を構築したり、学生の履修したい科目が重なってしまわないように時間割を調整しています。
大学教員は大学講義のほかにも他大学で兼任講義を請け負ったり、内閣府の有識者会議に参加したりと公務で忙しく働いているため時間割調整がスムーズに進まないことがあります。
当記事ライターの現役大学職員トキも教務課で時間割作成を担当していた頃は新年度開始という期限に追われながらすべての大学教員と調整して時間割作成を行いました。
教室の空き状況、収容可能人数、必修科目など時間割作成にはさまざまな制約がありますが、「学生の履修モデルをイメージした時間割作成」を意識して取り組んでいました。
期限がずらせない仕事の場合は周囲に相談して知恵や力を借りることが重要で周囲へ協力を仰ぐことも大学職員として必要な能力であることを学びました。
出典:大学職員になる「【図解】事務だけじゃない教務課の仕事内容!大学授業を支える大学職員の業務」
学期末試験の運営と成績管理では大量のデータを処理する
学生が講義や演習を履修すると学期末に必ず試験を受けて成績をつけることになります。学期末試験の成績評価で合格した学生は単位を修得することができ、卒業に必要な単位数に換算されていくわけです。
教務課では毎学期の学期末試験にむけて、すべての科目担当の教員に学期末試験実施の案内を行い準備をします。
例えば20,000人の学生が在籍する大学で1人が春学期に10科目履修していたとすると、単純計算で200,000件の採点依頼を行い、その結果に基づいて成績を管理します。
秋学期も同じだとすれば、年間で400,000件ものデータを管理し、この作業は毎年実施されることになるため大学システム内では大量のデータを保管管理しています。
この他にも教務課の大学職員は学期末試験の試験監督なども行うため、履修登録から学期末試験の採点準備や試験監督と大学講義に関する幅広い業務を担っていることがわかります。
教務課の大学職員は学生相談にのることも仕事
学生にとって教務課は新年度ガイダンスを実施したり、授業や試験の案内をしてくれる部署なので、親しみをもちやすい傾向があります。
そのため、大学で困ったことがあれば教務課の窓口に相談する学生が多く、学生相談の一次対応窓口になっています。
学生から受ける相談はさまざまで学生生活のこと、経済面に関すること、ハラスメントについてなど学生ひとりひとりによって異なります。
教務課の窓口に相談に来た学生と顔見知りになり、昼休みなどに学生から声をかけてもらうことがあります。
「キャンパス内での様子」や「就職活動の状況」など学生からたわいもない話を聞くことも多く、教務課はそれだけ学生を身近に感じることができ、学生のサポートができていることを実感しやすい部署でもあります。
教務課の大学職員が対応してはいけない相談もある
教務課では学生からたくさんの相談を受けており、特に新入生が入学したばかりの4月は相談だけでなく、大学施設に関する質問なども多数寄せられます。
そんな学生対応を行っている教務課ですが、教務課の大学職員がすべての相談について対応して解決するわけではありません。
大学には就職支援課や奨学金支援課など、それぞれの分野について専門に業務を行う部署がいくつも存在します。
そのため、就職やキャリアに関する相談があれば就職支援課に学生を繋いで、より専門的なアドバイスを受けるよう伝えます。
奨学金についても、給付型奨学金なのか貸与型奨学金なのか学生の状況によって求める奨学金制度も変わってくるので奨学金支援課を案内して学生が最適な選択をできるようサポートします。
特に気をつけなければいけないのが、精神・メンタル面に関する相談やハラスメントについての相談です。精神衛生やメンタルヘルスに関する事案は学生の心身に大きく影響するため、大学ではキャンパスソーシャルワーカーや臨床心理士などをキャンパス内の学生相談室に配置して対応できる体制を整えています。
カウンセリングについて素人である教務課の大学職員が安易なアドバイスをするのではなく、必ず専門家のいる学生相談室を案内してカウンセリングを受けるようサポートします。
セクシャルハラスメントやアカデミックハラスメントなどのハラスメントに関する相談もハラスメント相談室を紹介して、守秘義務を負った専門部署に繋げることで相談内容が不用意に広がらないよう配慮します。
教務課の大学職員にはこのような学生相談の一次対応を通じて適切な判断力と学生へのサポート力が求められます。
教務課の仕事では教員との連携が欠かせない
教務課で仕事をする上で大学教員との連携は欠かすことができません。来年度の時間割や科目担当者を決める業務においては教員の要望や意見をヒアリングしながら進めていきます。
大学では学部単位でカリキュラムを設定していますが、教務課ではカリキュラム改正に向けた検討会を教員と職員で設けて集中的に議論します。
当記事ライターの現役大学職員トキもカリキュラム会議では、教員から実現したいカリキュラム構想や求める水準をヒアリングした上で、大学設置基準や大学学則と照らしながら実現できるカリキュラムについて提案し、教員と議論をしてきました。
教務課の大学職員が授業をするわけではありませんが、さまざまな制度と照らしたり、学部間の連携を促進するなど仕組みを整える側面において大学職員の役割が重要になります。
まとめ:教務課の大学職員は大学運営に欠かせない存在
教務課の仕事をまとめると学部運営に欠かせない仕事を担っているということです。学生が当たり前のように講義や演習に参加するために教務課の大学職員はさまざまな業務を行います。
そして業務を行うためには教員、学生、他部署の職員など様々な人との会話が必要です。
学部の運営は大学職員だけでできるわけではなく、科目を担当する大学教員と密に連携することが求められます。時には教員が実現したいイメージが大学として、実現できない範囲である場合は、はっきりできない理由を説明して話をつけなければいけない場面もあります。
教務課で働くということはただ単純な事務作業だけをするのではなく、どんな相手とも積極的にコミュニケーションを図って会話をしていくということです。
人々が行き交い、交流する教務課では当然、スムーズに仕事が進まないことも多く、マニュアルには書かれていない難しい判断を求められることがあります。
しかし、それだけ教務課という職場は学生との距離が近く、自分の仕事が誰の役になるかを実感できる環境でもあります。
もし、大学の教務課を訪れる機会があれば窓口の奥で働く大学職員をよく観察してみてください。きっと新しい発見がありますよ。