今の職場では毎日代わり映えの無いルーチンワークばかり。
組織の歯車として働くのはもう嫌だ。スタートアップ企業で裁量権を持って仕事がしたい。
古い会社だからなのか風通しが悪くて他部署の人が何をしているかも分からない。
稟議書はガチガチでスピード感がぜんぜん無いし、新しい業務への挑戦も難しい。Twitterを見ていると世の中のトレンドにどんどん取り残されている気がする。ベンチャー企業のスピード感が羨ましい。
企業数も年々増加しており、大企業・中堅以上の企業から、スタートアップ・ベンチャー企業への転職を志す方は多いです。
(引用元:スタートアップ企業の活性化|前大臣官房総合政策課)
新卒からスタートアップ企業で働き続け、現在はベンチャー経営者として採用面接も担当している私から、スタートアップ企業転職をお考えの方に向けたメッセージとエールを贈りたいと思い立ち、この記事を書きました。
スタートアップ企業の本当の良いところって何?
よく聞くスタートアップ企業で働くメリットを列挙してみます。
- 守備範囲が広く
- 一人ひとりの守備範囲が広く、成果を上げれば上げるほど認められやすい。
- 自由な風土・気質
- 新しいことに対する抵抗が少なく、チャレンジが推奨されている。
- スピード感
- 上司や社長との距離が近く組織がコンパクトで、物事がどんどん決まる。またチャットワークなどのSaaS系ツールの導入にも積極的で、縦横のコミュニケーションが早い。
- ワクワク感・やりがい
- 自分の仕事によって会社が急成長するダイナミズムを感じることができる。
といったところでしょうか。どれもスタートアップ企業の求人票における常套句です。これらが組み合わさってスタートアップは成長を実感できる環境ということになるのでしょう。
たしかにとにかく色んな仕事をこなすため、いやがおうにもスキルや折衝力が上がるし、視野が広がるのは事実です。結果として1~2年で見違えるように活躍する若手も多いです。
しかし、これには重要な前提が欠けています。
スタートアップがあなたにとって良い環境であるためには、3つの前提条件があると考えています。
この前提を抜きにスタートアップ企業へ転職してしまうから、ミスマッチの悲劇が発生するのです。
【前提(1)】あなたはベンチャー気質を心の底から楽しめるのか?
まず何より大切なのは、スタートアップ特有の環境をあなた自身が楽しめるかどうかです。
- 守備範囲が広く、のびのびと働ける
- 守備範囲が広いというのは裏を返せば「実力的に不足していることもどんどん任される」ということでもあります。未経験の業務に対するチャレンジを「楽しい」と感じられる人でなければ苦痛でしかありません
- 自由な風土・気質
- 言い方を変えればカオスです。労働環境や福利厚生は整っていませんし、人事制度なんてものはありません。残業時間も長く、特に評価制度の不備や不公平感に不満を持つ方は多いです。
- スピード感
- 仕事の内容や会社の方向性が朝令暮改でコロコロ変わります。「一つのことに腰を据えて取り組みたい」という職人気質の方には不向きです。
- ワクワク感・やりがい
- 会社の成長や売上というのは決算書になって初めて判断できるものであり、毎日ワクワクしているわけがありません。
結局のところ「成長」というのは成功体験を積み重ねられるかどうかにかかっているわけで、上記のようないわゆるベンチャー体質を心の底から「楽しい!!」と感じることができない人は成果を上げられず、遅かれ早かれ離脱していきます。
- どちらかといえばインプットよりもアウトプットの方が好きですか?
- 環境の変化が不安ではありませんか?ワクワクしますか?
- 自分はマイペースというより、せっかちな方だと思いますか?
- 安定よりリスクを好んで選択することが多いですか?
この質問の内「YES」と回答できる数が多いほど、スタートアップ企業を楽しめる素質があるんじゃないかなと思います。
【前提(2)】事業は伸びているのか?
スタートアップ企業に入社するにあたってもう一つ注意深く観察して欲しいことは、事業が伸びているのかどうか、です。
2019年版の中小企業白書(経済産業省公表)によりますと、起業後5年たった時点での生存率は41.8%とされています。10年後ともなりますと約26%の企業しか残りません。
スタートアップで売上を伸ばし続けるというのはこれだけ難しいことなのです。
ただしここで申し上げたいのは倒産のリスクがあるからベンチャーは辞めておけ、ということではありません。
ベンチャーに入ってしゃかりきに仕事をした経験があれば会社が潰れても再就職は余裕ですから。
それにそもそも倒産リスクを気にする方はスタートアップ転職を検討しませんよね。
それよりも、
事業が伸びない会社は本来スタートアップが持つ良さが日に日に失われてしまうのです。
- 守備範囲が広く、のびのびと働ける
- どんどん色んなことを押し付けられるようになります。それでも売上が回復しないとすさまじい徒労感に襲われます。
- 自由な風土・気質
- 経営者が暴走しだしてブラック企業体質になるところも多いです。
- スピード感
- 大抵の場合経営者はせっかちで、売上が悪いとまだかまだかと背中を突かれます。
- ワクワク感・やりがい
- 売れないので当然ワクワクできませんし、やりがいも感じにくいです。
これがシード期(創業直後プロダクトの開発段階。リリースを控えている状態)ならまだいいのですが、プロダクトをリリースしたのに思うように顧客が増えなかったり、競合や大手企業が類似サービスを被せてきたりしている状態ですとかなり社内の空気が悪くなります。
赤字でもいいのです。とにかく売上が少しずつでも増加しているかどうか、これが大切です。
どうやって伸びる会社を見極めればいいのか!?
でも何が売れるのかがわかれば・・・苦労はしないですよね(笑)
スタートアップの内状はほとんどの場合非公開で成長曲線を知ることも困難です。
(会社発行の売上予測はほとんどが希望的観測でまったく信用できません)
ですからひとつの軸として、以下の項目をチェックすると良いと思います。
- 競合製品、類似のサービスが存在していないこと。
- 簡単に模倣できる技術ではないこと。
- すでに別事業である程度の売上が立っていること。
- 経営者は尊敬できるか。あなたを一人の人格として扱い、耳を傾けてくれるか。
- 経営者が毎晩のように朝まで夜遊びしている人ではないか。
最後は勘です。あなたの気持ちを委ねることができるプロダクト(サービス)・経営者かどうかでご判断を!
【前提(3)】創業期に近ければ近いほど、人数が少なければ少ないほど面白い
どうせスタートアップにジョインするのであれば創業期に近ければ近いほど、人数が少なければ少ないほど面白いです。
いわゆる「ベンチャーらしさ」が凝縮された環境の中、会社やプロダクトが産まれて育っていくさまを間近で見守ることができます。
何より、スタートアップ企業とはいえ良くも悪くも「早く入ったもん勝ち」なところがあるので、その時期にジョインして成長させることができればゆくゆくは経営幹部としてキャリアを広げることも夢ではありません。
私の同級生で心の友でもある池戸聡さんは、サムライト株式会社(東京都港区)というWebマーケティング会社がまだ5名だったころにアルバイトとして入社し大活躍の末、代表取締役まで上り詰めてしまいました。
一方である程度上場が見えてきている企業ですとタイミングによってはストックオプションはおろか従業員持ち株会にすら入れないこともあります。
また、会社が成長して100名規模になってくると、黎明期の独特なカオスな雰囲気が忘れられずにまた別のベンチャー企業へ転職したり起業したりする方も多いです。
大手企業・大企業からベンチャー企業に転職する方へ
スターウォーズエピソード7でただのストームトルーパーだったフィンがファースト・オーダーのやり方に違和感を覚えてレジスタンスに加わったように、大手企業にお勤めの方がスタートアップの働き方にある種のあこがれの感情を抱く事も多いようです。
大手企業の出身の方はスタートアップ気質が合う・合わないが極端に分かれるので特に慎重になってください!
一度ベンチャーに入ってから後悔しても後の祭り。大手企業に転職でカムバックすることはとっても難しいです。
実際に私の前職や知り合いの経営者の会社で、「知識・スキルは申し分無いのにスタートアップと価値観が合わない人」を何人も見てきました。
決してこういった方々をさげずんでいるわけではありませんので誤解しないでください。
みなさん、元の会社では活躍しているのです。
転職先にスタートアップを選びさえしなければそのまま幸せな職業生活を送っていたかも、と思うからこその忠告です。
大企業→スタートアップ転職のよくある失敗例
企業の看板を自分のブランドと勘違いしないように気をつける。
スタートアップ企業に一度入社してしまえば社歴は関係ありません。
顧客はもちろん、社内のメンバーのあなたの前職で一目置くようなことはありません。
何を知っているか、何を成し遂げるか、どれだけの仕事をこなしたかで全てが評価されます。
どんなポジション、どんな年齢でも率先垂範でリーダーシップを求められる
スタートアップでは「管理だけする人」は不要ですし、リスペクトされません。
常に率先垂範で技術とお手本を示しつつ、周囲を動かしていくリーダーシップが要求されます。
パートさんに仕事を丸投げして定時帰宅などもってのほかです。
守備範囲がころころ変わるし、どんどん広がる。
スタートアップでは営業しながらWebサイトを管理したり、プログラマとして開発をしながら採用活動を担当したりすることが普通です。一人二役、場合によっては一人三役の稼働が必要です。
役割至上主義の方に居場所はありません。
そもそも「仕事を任せてもらえない」スタートアップなんて存在しません。実力・スキルの範囲外の超えた未経験の仕事を自分で模索しながら進めなければいけません。
経費が使えない。
SNSで見かけるように派手に夜遊びしているのは役員だけ。イチ社員の内はお客様との会食や書籍の購入費も自腹であることも。
大企業のときのように厳密な会計は期待できません。
年収は間違いなくダウン。
大企業とベンチャーでは新卒2年目でも100万円ぐらいの差が出ます。この差はどんどん広がっていく。しかもいつ上がるのかなんてわかりません。
原資がありませんから会社の成長を加速させなければ大幅なアップは見込めません。
スタートアップ企業では個人でいくら成果物を出しても最終的に事業の売上が上がっていなければ給与が上がりにくいです。
その分事業がスケールした時のリターンはものすごいのですが・・・
労働時間は長い。そもそも人事制度なんかない。
ベンチャー企業の多くが「みなし残業制」を導入していて、労働時間が長いです。
そもそも人事制度など整備されていないことがほとんどで、社員30~50名前後のスタートアップでは「仕事の実態をよく理解していない経営層が賞与を決めている」という不満が溜まりやすいです。
それでも、スタートアップが好き
この記事では勢いでスタートアップへの道を踏み出してしまう方に真剣に考えていただけるよう、あえてマイナスの側面を強調してお伝えしました。
「そんなに厳しい世界ならやめておこうかな・・・」と思われるかもしれません。
でも、それでも。
スタートアップで働くって最高に楽しいんです。
合う人にとっては。
私は起業する前もベンチャー企業に5年間勤めていましたが、毎朝会社に行くのが本当に楽しみでした。
誰に言われるでもなく休日に出社して作業していましたし、
仕事が終わって、仲間と飲んで、家に帰ってシャワーを浴びる時ですら明日の業務のことやチームの未来のことを考えていました。
当時の私にとってはそれが普通で、苦痛ではありませんでした。
20代の重要な時期にこれだけ仕事に夢中になれたのはとても幸せなことで、スキルや仕事観としても財産になっています。
ですからここまで読んで「あ、それはもう覚悟してるから私は大丈夫。」と言える方であればスタートアップ転職を強くおすすめします。
スタートアップに転職したいなら、直接応募にトライしてみて
私は転職サイトや人材紹介会社(エージェント)の利用だけがベンチャー転職の道筋だとは思いません。
もしすでに意中の企業があるのであれば今の時代、お問い合わせフォームや社員の方のツイッターDM経由で直接応募するのが一番です!
「いきなり問い合わせするなんて、失礼じゃないの?」と思われる方も多いようですが、転職サイトへの掲載には媒体コストがかかりますし、人材紹介会社には採用決定時に報酬を支払う(あなたの年収の20%前後が相場です)仕組みになっているため、採用側としても直接問い合わせが入ることは大歓迎。
特に採用コストが課題になっているスタートアップ企業ではこの傾向が顕著です。むしろ直接応募の方が選考で有利になることすらあるでしょう。
直接応募者の方が熱意や情報感度が高い、と評価する方もいます。
さっきも呟いたけど、入りたい会社があるのなら、直接ホームページなり社長へDMなりでそのまま連絡しちゃいましょう。エージェントや媒体通すと採用基準上がっちゃうの知ってます?エージェントなら年収の1/3ほどが手数料なので、直応募より審査基準が高くなります。入りたい会社には直応募が鉄則です
— sem_master (@semlabo) September 6, 2019
事業開発などはエージェント経由だと、自分で会社へアクセスしようとする自主性がないと見られるリスもありますね。
米国のVCにはエージェントどころかあえて応募サイトすらなく、自分で紹介者を見つけろ、とだけ明記されていることも。興味ある会社へアクセスできるかもVCの重要なスキルなので。 https://t.co/yRgChdIWkO
— Kenichiro Hara| DCM Ventures (原健一郎) (@kenichiro_hara) September 7, 2019
落ちるときはあなたのスキルセットや経験がその企業に求められていなかったということですから、転職サイトやエージェントを介しても落ちます。
「転職エージェントを介さないと年収交渉ができない」というのもよく言われますが、おおむねアフィリエイトサイトの詭弁です。
転職エージェントが給与交渉をサポートしてくれるのは事実で、そのサポートに価値が生まれるシーンも確かにあるのですが、スタートアップへの転職では必ずしもそうではありません。
採用側としても優秀で前向きな人材を他社に取られたくないのは一緒です。
だからお給料のオファーもできる限り高く出してあげたいのです。
事実、私の会社では起業してからこれまでに3名を直接応募で採用していますが、全員「採用コストがかからなかったから」という理由で前職よりも年収をアップさせています。
じゃあ転職サービスのメリットってなんなの?
ではスタートアップ転職で転職サービスは不要かといえばそうではありません。
直接応募ですと認識の範囲でしか応募できません。一生に何度も経験するものではない転職活動では、できる限り視野を広げて候補企業を選ぶべきだと思います。
その意味で転職サイトや転職エージェントは自分の思考の外にある未知の優良ベンチャーと出会うきっかけになり得ることが良さです。
また、中途採用の職務経歴書はあなたの実力と実績を省スペースでアピールするために独特の書き方が必要になるため、転職慣れしている方に添削をお願いできるのもメリットです。
中途の職務経歴書って
1.沢山書きすぎて、ごちゃごちゃ
2.簡潔に書きすぎて、簡素
で、どんな成果だして、どんなことが出来る人なのかわからないことほんと多い
会ってみたら良い人もいるんだろうけど、もったいない https://t.co/Wibaa3s5Ei
— ワタナベシンペイ@Nyle (人事時々Webマーケター) (@spw63) November 21, 2019
結論としてスタートアップ転職の場合は直接応募と転職エージェントの併用が良いと思います。もし転職サイトも合わせて利用するならWantedlyが良いと思います。
スタートアップ経営者の一人として、転職のミスマッチを少しでも減らしたいと思いこのコラムを書きました。
スタートアップへの転職を本気で志すビジネスパーソンの皆さんの参考にしていただければ幸いです。